84年7月下旬、B子さん宅を増田都子という女性が訪れ、手相をみた。このとき印鑑を3万円で買った。翌日はA子さんを苦しめた舞台である小倉北区下到津5丁目の霊場に連れて行かれ、「なにかよくわからないうちに」600万円の多宝塔をおしつけられていた。後日、高麗人参一ダース(96万円)も契約した。
84年9月9日、B子さんは4泊5日の韓国旅行に招かれた。連れて行かれたのが多宝塔のある仏国寺である。帰国後、実に荒っぽいことが始まった。電話で霊場に呼び出され、スエマツという中年女性から質問書を渡された。過去に水子がいたかどうか、預金の金額、自宅の名義などを記入して出せというのである。B子さんは「定期4000万円」と書いた。殉職した夫が得た退職金や弔慰金の総額である。
■お宅は絶家の相です
10月下旬、霊場から迎えがきた。以下B子さんが話すやりとりを記そう。
女の先生:全部出して、裸になって私といっしょに修行しませんか。
B子:それは……。
先生:もう一度お尋ねしてきます。(別室へ退き、やがて戻ってきて)それじゃ3000万円神に捧げてください。
B子:はい。
スエマツ:奥さん、夜泊まりに行ってあげます。それだけの金を出すのは、心身の動揺があるでしょうから。
3000万円を受領した後、先生は「霊薬と壺をあげましょう」といって、「高麗人参343個」「高麗大理石3個」預かりという保管書を発行してくれた。つまりB子さんに3000万円を献金させたあと、人参、壺の正常な売買があったように偽装したのである。
夫の退職金をほとんどはたいたことを息子に知られはしないかとひやひやしながらも、B子さんは相手に勧められるまま、小倉北区三萩野のマンションにある原理関係者出入りのビデオセンターで、キリスト教らしい教えを授けられた。月に一度は教義集会に出た。
息子に知られては困るという心の重圧に負けて、B子さんが北九州市立消費生活センターに現れたのは11月13日である。解約のための苦情申し立てを受けた相談員は、即座に相手に解約を申し入れた。
しかし翌14日、逆転が起きた。B子さんは同センターに電話で苦情取り下げを通告してきたのである。相手方から説得があったことを彼女は認めた。16日から彼女の姿が消えた。20日になって帰宅したのを友人が確認した。B子さんは「京都旅行だった」と釈明している。