香川照之氏
香川照之氏
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作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、性加害と謝罪について。

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 週刊誌で報道された香川照之氏が女性の髪の毛をわしづかみにしている写真は衝撃だった。香川氏の笑顔の雰囲気からすれば、その場はフツーに賑やかな酒の席、だったのだろう。被害を受けている女性が“その空気”にとっさに抗うことができないほど、“楽しい場”だったことが写真からも伝わってくる。その空気も含めて、怖い。

 3年前の、福岡地裁久留米支部が下した性暴力の無罪判決事件を思い出した。20代の女性が、テキーラを意識が失うまで飲まされ、酔いつぶれた姿を大人の玩具などとともに写真に撮られたりなどし、その上で40代の男に性交を強いられた。一審が無罪判決になった理由の一つに、「複数の人の目がある場で性交したということは、犯罪行為である認識がなかった=同意と勘違いしていた」というものがあった。楽しげな酒の席でのことは無礼講、その場で嫌と言わない女は、一緒に楽しんでいたはず……と性暴力を性暴力と認識できずに加害者になってしまう男性は少なくない。(この事件は高裁で逆転有罪、最高裁で有罪が確定した)

 それにしても、この写真が出るまでは、香川氏に対して全く“一発アウト”の空気にならなかったことが、そもそも不思議だ。テレビ局やスポンサーたちがお互いに目配せしながら「どうする?」と世の中の空気を読んでいるかのように見えた。各社にセクハラや性暴力に対する独自の厳しい基準がなく、世論で判断を決めようということなのだろうか。また、SNS上でも香川氏に対して同情的な声も大きかった。

 香川氏も周囲も、もしかしたら甘く捉えていたのかもしれない。司会を務める情報番組では深々と頭を下げて「与えていただける仕事に真摯に挑む」などと発言をし、テレビ朝日で放映中のドラマも打ち切りになることなくオンエアされた。「頭を下げて嵐を待つ」というような収束を目指したのかもしれないが、香川氏の最初の謝罪は、最悪だったと言ってもいい。被害者に対するお詫びがなく、「お騒がせした」ことしか謝っていないように見え、それはどこか上層部へのこびへつらいにしか見えないものだった。役柄と役者が同一視されてしまうのは気の毒だが、そうであればなおのこと、謝罪の言葉には慎重になるべきだった。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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謝ったほうが負け、ではない