北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

 改めて「謝罪」というものについて考えさせられる。謝罪は、実はジェンダーと深く結びついている。謝罪とは、自分がしてしまったことの事実を認め、その事実に対する深い反省を表明し、被害者にお詫びし、二度とくり返さないためにどのように今後はしていくか、今どうすべきかを表明することである。ところが、これ、男ジェンダーには、どうやらハードルが高いようなのだ。「頭を下げたら負け」というようなことが骨の髄までしみこんでいるようなマッチョな組織論に染まっている人たちにとって、自分の罪を認め、被害者の立場に立った反省を表明することは、自分のアイデンティティーを裏切るほどに大変なことらしい。だから謝り方を間違える。さらに周囲も、「男がこんなふうに頭を下げてるんだから、許してあげて」みたいな気遣いをしがちである(一方で女は頭を下げて謝りすぎ、何をするにも「すみません」を言いすぎである)。しかも、謝り方を間違えているのに、納得しない被害者に向けて今度は「謝ったのに許さないほうが悪い」と、ずれた怒りを感じ、加害者なのに「自分こそが被害者だ」と勘違いする場合もある。けっこうある。

 土下座演技で大スターの地位を確固たるものにした香川氏が謝罪でつまずいたのは大きな皮肉だが、そもそも土下座を「最上級の謝罪」と考える文化が間違っているのかもしれない。私は、これまでの人生で一度だけ「土下座して謝れ」と言われたことがある。仕事をはじめたばかりのころ、相手は取材先の50代男性だった。私の口調が生意気だ、という理由で「土下座しろ」と言われたのだ。え? ここは江戸?と、衝撃を受けたが、ただ相手に屈辱を強いることを「謝罪」と思う人がいること、そしてそれが社会的に地位の高い男性であったことに、社会人になったばかりの私はかなり驚き絶望したものだ。ドラマ「半沢直樹」で香川氏演じる悪役が最後に深々と土下座をするシーンで視聴者は留飲を下げたように、相手に屈辱を強いる行為=謝罪と考える感性が男社会にはある。謝ったほうが負け、というカルチャーの中で、私たちは本当の「謝罪」というものを学ぶ機会も、知る機会も、実践する機会もないのかもしれない。

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真摯な謝罪を求める