自分が50代60代になって子どもたちが独立し、さあこれから自分たちらしい人生を、と考え始める時期は、自分の親の老いに直面し始める時期でもあります。いつまでも元気だと思っていた親がちょっとした失敗をし、「しっかりしてよ」と口にした経験はありませんか。長年、介護の現場に携わってきた介護アドバイザーの高口光子氏は、この言葉が出たら、「親はいつまでも頼るべき存在ではない」と認識を改めるきっかけにしてほしいと訴えます。やがてくる親の介護に備え、早い段階から親と子、それぞれの立場を見直していくべきだと言います。くわしくお話をうかがいました。
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■親のちょっとした失敗に口をついて出る言葉
「しっかりしてよ! おかあさん」
「おとうさん、何やってるの!」
あなたは老境に差し掛かった親にこんな言葉を発していませんか。
たとえば出かける際、親がぐずぐず手間取って間に合わない、親が、頼んだ物を買い忘れた、家の中が散らかっていて片付けが追いついていないなど、家庭内のいろいろなシーンで、つい言いたくなる言葉です。
言ったあなたはうっかりミスととらえているでしょう。自分を育ててくれた親はいつもしっかりしていて、こんなことでミスをする人ではなかったはずだ、という思いがあります。だからこそ、「しっかりしてよ」とおしりをたたくような表現になってしまうのですが、実は、これは親の老いの始まりです。昔できていたことがだんだんできなくなっていく。言われた親は子どもであるあなたに老いた姿を見せたくないので、「まいったなあ」などと言って、うっかりミスであるかのようにふるまいます。でも、あなたはそこで気づくべきなのです。
どんなに元気な親であっても、いずれ年とともに老い、やがて介護が必要になっていく。そうなってくると、親を支えるのはあなたになり、親の生活と命にかかわる重要な決断を迫られる日が訪れるかもしれないのです。