2000年代に入って、教育改革における新自由主義的傾向は着実に強まっていくことになる。それを象徴するのが学校選択制の広がりという現象であった。特に2000年における東京都品川区での学校選択制の導入は、一つのセンセーションを巻き起こした。
学校選択制とは、公立の小学校や中学校を選べる制度のことである。当該自治体のすべての学校から進学する学校を選べるものから、自分の校区に隣接する小・中学校であれば選択できるというものまで、その運用の仕方にはさまざまなタイプがあるが、いずれにしても学校を選べるということである。日本の常識では、私立の学校は選べるが、公立の小・中学校は選べないというのが通例だった。その形を変えたのが学校選択制である。
2006年に実施された文科省の調査によると、全国の地方自治体のうち、何らかの学校選択制を導入している自治体が240(全体の14.2%)、検討中が569(33.5%)、非実施が887(52.3%)という結果であった。
ただし今日では、2014年に実施をはじめた大阪市を除くと、学校選択制は退潮傾向にある。先陣を切った品川区をはじめとして、その運用を見直したり(具体的には、よりゆるやかなものにする)、制度自体を廃止したりする自治体が目立ちはじめている。欧米に範をとる学校選択制は、結果的に日本には根づかなかったようである。
■学力をめぐる国際競争
もう一点、新自由主義との親和性が強い国の施策について見ておきたい。それは、全国学力・学習状況調査(以下、「全国学テ」)の実施である。2007年にスタートした全国学テは、さまざまな変遷を遂げながらも、現在では完全に小・中学校における年中行事として定着している。この政策は、教育の多様化や個性化を目指すものというよりは、その競争力の向上を意図して導入されたものである。
背景にはOECD(経済協力開発機構)が2000年から実施している、PISA(OECD生徒の学習到達度調査)と呼ばれる国際比較学力テストの存在がある。このテストは、変貌する社会のなかで優れた労働力として活躍するために必要な能力をどう育成するかという視点から設計されており、その結果に各国政府が一喜一憂するという状況が続いている。いわば、学力をめぐる国際競争が日常化しているということである。
たとえばイギリスでは、サッチャー改革によって、全国的な学力テストと学校選択制は対になって実施されるようになっている。テストの結果が学校別に公表され、それにもとづいて保護者が自由に学校を選択するという形が、1990年代から存続しているのである。日本はまだそこまで行っていない。先に見たように学校選択制の導入は一部の自治体にとどまっており、なおかつ一般的にはテスト結果の学校別成績は公表されない状態が続いている。
義務教育の世界にもペアレントクラシーの原理が貫徹しているイギリスに対して、日本の現状はそうなってはいない。皆さんは、どちらがよいと思われるだろうか。