庄村さんいま、スタイリストやライターなど多ジャンルにわたって活動している(撮影/加藤夏子)
庄村さんいま、スタイリストやライターなど多ジャンルにわたって活動している(撮影/加藤夏子)

 自分に起きた大きな変化を受け入れる過程で庄村は、「それほど特殊なことではないのかもしれない」と思い至ったという。有名なロックバンドのドラマーだったから注目されただけで、体調や状況など、何らかの変化が生じることは誰にでも起こり得るし、そのことと向かいながら生活を続けている人は多いはずだ、と。

「そう考えると、うつだったりストレスだったり、他にも理由や原因は幾らでもあると思うんですけど、できていた事がある日突然できなくなってしまうという一種の職業病的な症状に近しい部分もあるんじゃないかなって。だから、自分の身に起こったこの変化を受け入れることができたという俺の実例は、なにも音楽家に対する症状との向き合い方だけではなくて、もっと一般的に知られてもいいんじゃないかと思ったんですよね」

 バンドを離れることを決断した後は、音楽業界だけではなく、ファッション、マスコミの知り合いからの誘いを機に、現在はファッションディレクター、スタイリスト、音楽プロデューサー、ライターなど、幅広いジャンルで活動している。30代の終盤であまりにも大きな転機を迎えたわけだが、彼自身はこの事態を深刻に捉えず、「ドラム叩けない自分を受け入れることに比べりゃそんなんどうにでもなるだろうと気軽に考えてました(笑)」という。

「ドラムは叩けなくなったけど、『これで人生を楽しめなくなるのか?』と言えば、それは違う。ファッションが大好きだからSNACK NGLというブランドや、それとは別にフリーでスタイリストとしてもやらせて頂いてますし、実は学生の時に志望していたライターの仕事もやらせて頂いてますしね。ドラム以外の“好きこそものの上手なれ”をどこまで体現できるのか、実験している最中ですね(笑)」

■変化を新しい可能性につなげる

 新しいドラマーが加入した[Alexandros]のライブに足を運び、音楽フェスに観客として参加するなど、「ドラマーとしての視線ではなく、音楽を楽しめるようになった」という庄村。変化を受け入れ、新しい可能性につなげる彼の生き方は、まったく先が見えない現在において、大きなヒントを含んでいる。

「自分としては『新しい可能性を探そう』と思っていたわけではないですし、できなくなったから仕方なく、というか、そうするしかなかったんですけど(笑)、でも、そう思ってもらえたとしたらとっても嬉しいですね。相変わらずドラムは満足に叩けないけれど、ドラムとは違う道に活路を見出さんとして今自分がやっていることは、これも病気に対する治癒の一種なんじゃないかと。かなり極端な例ですけど、こういう男がこういうやり方で病気と取っ組み合ってますよということを知ってもらえるのはとても意義深いし、ありがたいことだと思ってます」

(取材・文=森 朋之)

庄村聡泰(しょうむら・さとやす)/ロックバンド[Alexandros]のドラマーとして2010年より活動。2019年6月に局所性ジストニアによる活動休止を発表、2021年にバンドを“勇退”した。以降はバンド時代の収入ほぼ全てを注ぎ込むほど傾倒した音楽や衣服を中心に、映画や漫画、アニメやグルメなどさまざまなカルチャー方面の知識と経験を生かして、スタイリストやライター、音楽グループ「不楽足ル」の制作総指揮など多ジャンルにわたり活躍している。

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森朋之

森朋之

森朋之(もり・ともゆき)/音楽ライター。1990年代の終わりからライターとして活動をはじめ、延べ5000組以上のアーティストのインタビューを担当。ロックバンド、シンガーソングライターからアニソンまで、日本のポピュラーミュージック全般が守備範囲。主な寄稿先に、音楽ナタリー、リアルサウンド、オリコンなど。

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