チョコレート嚢胞もこの術式でおこなう。嚢胞に針を刺して内容物を吸引し、萎んだ嚢胞を切開する。そして貼りついている皮膜を剥がし卵巣を縫合する。卵巣機能を落とさないように、正常な部分をできるだけ残すことが可能だ。
「子宮内膜症は妊娠・出産という患者さんの人生に大きく関わる病気なので、手術をするかどうかの選択は、とても難しいのです。妊娠を希望するのか、しないのか、いつ妊娠したいかで治療法は変わります。妊娠を望まず、手術適応条件に該当するのであれば、唯一の根治術である卵巣や子宮の摘出もできますが、将来の人生設計がまだ定まっていない、特に若い世代の治療は慎重に考えなくてはなりません」(佐藤医師)
たとえば、20歳の患者にかなり大きなチョコレート嚢胞があっても手術をしない場合もある、と佐藤医師は話す。
「ガイドラインで手術が推奨される8~10センチの嚢胞でも、すぐに手術を選択、とはなりません。MRIなどの検査結果で悪性の可能性がないならば、将来の妊娠のため、まずは薬物療法を選択して3カ月から半年程度、経過を観察します」(同)
今すぐに妊娠を望んでいるなど、希望する時期でも治療法は変わる。薬物での治療中は排卵や、受精卵が着床する子宮内膜の増殖を止めるので、妊娠ができない。そのため子宮内膜症が排卵や受精を妨げている場合、治療は手術で病巣を摘出となるが、診断から手術の日までの数カ月は妊娠をすることができず、タイムロスが生じてしまう。そこで子宮内膜症自体の治療ではなく、体外受精などの不妊治療を優先するほうがよい場合もある。
「薬物療法でコントロールができるのであれば、若い未婚の人が急いで手術をする必要はありません。若いときに手術をしても、いざ結婚をして妊娠したいと思ったら再発していた、などということが往々にしてあります。いつ妊娠を希望するのかを考えて、手術の時期を決めるべきです」(同)
■再発のリスクには薬物療法が有効
子宮内膜症は再発率が高い疾患だ。卵巣と子宮を残す手術の場合、術後に子宮内膜症の原因となる月経が再開する。月経が子宮内膜症の発症リスクとなるため、手術だけだと術後2~3年で30~40%の人に再発してしまう。そのため術後も再発予防として薬物療法が必要となり、ピルの服用で再発率は10%以下に抑えられるという。