ところで小学生は、入学して間もない時期に便秘になりやすいことがわかっています。子どもの便秘の治療指針をまとめた「小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン」(日本小児栄養消化器肝臓学会、日本小児消化管機能研究会)には、子どもが便秘を発症しやすい時期やきっかけとして、以下の三つを挙げています。
1.乳児:母乳から人工乳へ移行するタイミング。あるいは離乳食の開始時期
2.幼児:トイレットトレーニング開始のタイミング
3.学童期:通学の開始時期。学校で排泄することの回避
「学童期の便秘には、慣れない学校生活による緊張が関係していると思われます。排便の9割には自律神経が関係しており、交感神経が緊張する生活が続くと、自律神経のバランスが乱れ、腸の働きが悪化することがあるのです」
■排便トラブルは、自尊心を傷つけてしまう
排泄の回避の理由については、長年、学校のトイレ環境の問題が指摘されてきました。学校には子どもが不慣れ、苦手な和式トイレがまだ多く残っています。文部科学省は全国の小中学校など公立学校の洋式化を進めていますが、2020年の調査では、東京都の71.1%がもっとも洋式化の進んだ地域で、対して島根県は35.3%でもっとも低く、地域によってはまだ十分普及しているとはいえません。
「排便をタブー視する傾向も便秘の引き金になります。学校で大便をするとからかわれるので、便意があっても我慢し、放課後、帰宅してから排便しているという話はよく聞かれます」
中野医師は、小学生の便秘は低学年のうちに親が早期発見して、治療を開始することが大事だと訴えます。
「重症便秘で見られる便の失禁は、子どもは自分ではコントロールできません。にもかかわらず下着が汚れていることを親に指摘されたり怒られたりすると、『便が漏れることは悪いことだ』と、次第にその事実から目を背けてしまい、やがて親にも隠すようになります」
便の失禁のためにオムツを使わせている保護者もいます。失禁や下着の汚れだけで子どもは自尊心が傷ついており、オムツはさらに傷つきます。不登校になるきっかけが実は便秘だったというケースを中野医師は数多く、経験しています。
「9~10歳以上でこのような心理状態になってしまうと、親が診察に連れてきても治療を嫌がります。便秘治療と同時に精神心理的な治療も必要になってしまうのです」
■トイレの時間が長い、詰まるは「要注意」
そうならないために、子どもの便秘に早く気づくことが大切です。前述のように「腹痛」と「便の漏れ」は便秘が進行した状態です。この場合はすぐに受診が必要です。早期発見のポイントは、「トイレの時間が長すぎる」「トイレが詰まることがある(たまりすぎた便を一気に出しているため、トイレが詰まるほど太い便になっている)」などです。
中野医師はこのほか、排便回数や便の形状、硬さなどを記録する「排便日誌」をつけることをすすめています。
「小学生くらいになれば子ども自身で記録できます。夏休みなどにまずは1週間、つけてみるといいですね。そうすると、排便がないときはお子さんがお母さんに、『もっと野菜を食べなくちゃね』などと言ってくることもあるそうですよ。排便日誌をつけることを、子どもに積極的にすすめている小学校もあります」
排便日誌はカレンダーなどに記録してもいいですが、無料でダウンロードでき、印刷して使用できるものがあります。スマートフォンにダウンロードできるアプリを使ってもいいでしょう。排便日誌をつけていて、便秘の兆候が見られた場合は、まず生活リズムの見直しを。
「子どもの便秘対策の基本は、健康維持の基本となる『早寝早起き』『3食バランスよくきちんと食べる』『睡眠をしっかりとる』です」
■家庭での対策で改善しないなら病院へ
対策をして1カ月ほどたっても症状の改善が見られない場合は、医療機関に相談して薬の服用や浣腸などの治療を受けましょう。小学生の便秘の治療は、2~3歳の幼児の便秘と基本的には同じです(幼児の便秘の治療法は過去記事で特集しています)。
中野医師は、子どもの便秘治療についてこう話します。
「子どもの便秘の約80%は一般の小児科クリニックで治療がうまくいきます。一方、難治性の便秘は専門医でないと改善しないことがあります。治療を開始して2、3カ月たってもよくならない場合や、主治医になぜよくならないのか質問をしても明確な回答がない場合は、便秘外来のあるクリニックや病院に紹介してもらうといいでしょう」
文・取材/狩生聖子