皮膚科特有の話としては、患者さんの状態の良い日は研究をする時間がとれます。あまり知られていないことですが、日本の皮膚科領域の基礎研究はこれまで世界のトップクラスを誇ってきました。これも17時以降に皮膚科医が自主的に(もしくは教授の命令で)夜間に研究を行っていたからです。

 働き方改革に伴い、皮膚科の分野では基礎研究の衰退が懸念されます。これまで時間外で行っていた研究ができなくなるわけですから、日中で行えるように診療業務を調整する必要があります。臨床と研究の質を担保しながら労働条件を改善させることが必要です。言うのは簡単ですが、これを実践するには今の人員の倍は必要です。残念ながら財政的にマンパワーを増やすことは無理なので、医学研究はどうしても後回しになってしまうのが現状です。

 日本の科学技術力が低下していることがしばしばニュースでとりあげられますが、医学の分野でも大学という現場で今後改善する要素はあまり見当たりません。

 制度上の問題として給料のアンバランスさがあります。大学などでの責任を伴う業務を行うことでもらう報酬は、医師が医療脱毛のコンサルテーションをするだけの民間で流行しているアルバイトよりも低いという状況です。お金の面だけ考えると、大学病院で真面目に研修するのがばからしくなるのは自然な流れかもしれません。

 もちろん大学の医局側にも問題はあります。ブラックな労働環境、教授からの仕事の無茶振り、多い転勤。スキルアップは目指せるものの、負の要素があまりにも多い環境を変えなければそもそも大学病院で研修を続けようという気にはなりません。

 医師のホワイトな労働環境整備に向けて積極的に準備を進めていますが、同時にこれまでの医療や医学の質を担保するための制度を整備することが必要です。今やらなければこの先、医療の分野は低迷することが目に見えています。

著者プロフィールを見る
大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

大塚篤司の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
【フジロック独占中継も話題】Amazonプライム会員向け動画配信サービス「Prime Video」はどれくらい配信作品が充実している?最新ランキングでチェックしてみよう