父親が病弱なこともあり、
「控訴で真優子の無念を晴らしたいが、もう争う余力がない」
と話しつつも、
「ただ検察もメンツがあることなので、やるならもう一段、二段でもという気持ちはある。裁判所、裁判員の方は遺族の思いは十分にくんでくださったのでしょうが……」
と複雑な胸中を打ち明けた。
判決は、宮本被告が、何度も稲田さんの首や胸などを突き刺したことについて、
「身勝手で、強固な殺意の下にされた無慈悲で残酷な行い。犯行現場での証拠の隠滅に時間を要し、相当に計画的な犯行で強く非難されなければならない」
と厳しく指摘した。
それでも、判決が無期懲役ではなく懲役20年となったのは、宮本被告に前科がなく、殺人罪のほかに問われた罪がないことなどから、他の事案との公平性を考慮したとしている。
判決では、検察側の立証について指摘する部分があった。
検察側は、同種事案の量刑傾向を検索するシステムの条件設定で、宮本被告側から見た稲田さんの立場の条件に、「知人・友人・勤務先」という選択肢がありながら、それを選んでおらず、その理由についても明らかにしていなかった。
また、その検索結果では、殺人罪だけでなく、性犯罪も犯したものが大半であり、そうした点も考慮すると、検察側が主張する無期懲役という検索結果は、
「本件の量刑を検討するに当たって中心的な資料とするふさわしさまでは見て取れなかった」
とした。
この点について、東京地検元検事の落合洋司弁護士は、
「全体的に検察の立証が弱く、甘かったという印象だ。これは単なる殺人ではなく、店に通い詰めるなどストーカーの要素があるので、ただの殺人罪ではないと、そこを強く立証すべきだった。判決で検索キーワードの不足が指摘されることは珍しく、無期懲役の立証としては不足であることがうかがえる」
と話す。
事件の捜査にかかわった関係者は、
「宮本被告は殺害後、稲田さんの友人が遺体を発見するまでの2、3日で、凶器の刃物や返り血を浴びることを想定して準備した上着などの証拠を徹底して隠滅した」
と打ち明け、次のような見方を示す。