12年前の東日本大震災で、震源から700キロ以上離れている大阪府咲洲庁舎に、大きな揺れが襲い、360カ所の損傷が見つかった。なぜ、想定よりも揺れたのか。AERA 2023年3月6日号から。
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国内で4番目に高い超高層ビル「大阪府咲洲庁舎」(高さ256メートル、地上55階建て)は、大阪湾に面した埋め立て地に立っている。
12年前の東日本大震災(M9.0)の際、このビルは震源から700キロ以上離れているのにもかかわらず、想定外の大揺れに襲われた。1往復(1周期)に約7秒かかる長周期の揺れ。揺れ幅は上層階では最大約2.7メートルもあり、それが10分以上も続いた。
天井の落下、防火戸のゆがみなど360カ所の損傷が見つかり、エレベーターも4基でロープが絡まって乗客が閉じ込められた。
どうしてこんなに揺れたのか。
「地盤に対して建物の高さが、最も具合の悪い高さ。そういったことが設計したときにわかっていなかった」
地震5カ月後の会議で、名古屋大学の福和伸夫教授(当時、現名誉教授)は、橋下徹知事(当時)に模型を使いながらこう説明した。
1995年に完成した咲洲庁舎は、設計時には40年から60年代に起きたM6からM7クラスの地震などの揺れをもとに設計していた。M9クラスの地震がどんな長周期地震動をもたらすのか、それが大阪湾岸の軟弱地盤と咲洲庁舎で共振を起こすことなどが、十分検討されていない時代のビルなのだ。
南海トラフ地震は近いのでもっと揺れる。そこで大阪府は、地震学や建築学の最近の進歩を取り込んで、耐震補強することにした。
揺れを吸収する装置(ダンパー)をビルの内外552カ所に設置。さらにエレベーターのロープが絡まないようにしたり、受水槽を耐震性の高いものにとりかえたりし、約40億円かけて補強した。オフィスとして使いながら工事を進めるため、作業は夜間や休日のみ。ダンパーなどの装置もエレベーターで運べるサイズに分けて、少しずつ荷揚げした。そのため工期は延べ約4年かかった。
補強後は、東日本大震災の時と同じ地面の揺れでも、ビル最上階の揺れ幅は約4割に減らせるようになったという。南海トラフで起きる最大級の地震でも、ビルの重要部分は損傷せず、そのまま庁舎として使い続けられるレベルだとしている。「ここまで対策をしているビルはまだ少ないでしょう」と、大阪府庁舎整備課の石塚なぎさ課長は言う。(ジャーナリスト・添田孝史)
※AERA 2023年3月6日号より抜粋