ちなみに、梨泰院のケースでは、1平方メートルあたり16人程度の密集具合だったと吉村特任教授は見る。この密度になると、紙のA4サイズに一人の人間が押し込められている状況だ。1人当たりの圧力は220キロにも達する。もしこの状況が満員電車で起こると、電車の窓ガラスが割れるほどだという。

 年末年始のイベントも、今後の懸念の一つだ。日本でも初詣で100人以上が死亡した場所がある。

 パワースポットとしても知られる新潟県の弥彦神社(弥彦村)は、毎年のように県内一の参拝客数を誇る。この神社で1956年の元旦に死者124人、負傷者94人という大事故が起きている。参拝に向かう人と、帰ろうとする人の波が石段付近で膠着(こうちゃく)状態になり、将棋倒しになったと見られている。

 大みそかのカウントダウンイベントもリスクがある。14年に上海ではカウントダウンイベントで将棋倒しが起き、30人以上が死亡した。川口教授は「お酒も入り、気分が乗るし、興奮しやすい状況がある」と指摘する。

 事故に巻き込まれないためにはどうしたらいいのだろうか。

 吉村特任教授は、1平方メートルあたり5人で危険と判断すべきだと指摘するが、これは「エレベーターの定員が一つの目安」という。つまり、エレベーターで人が乗りすぎてブザーが鳴る程度の密集具合だ。

「この状況ならまだその場から逃れることができますが、これ以上多くなると、人の流れに逆らうのは困難になります」(吉村特任教授)

 梨泰院のケースも、事故の前には、すでに流れから逃れようとしても不可能な状況になっていたとの専門家のコメントも報道されている。

 川口教授は「中心部は危険なほど密集していても、少し離れると危険に見えないので注意が必要です」と指摘する。

「人ごみの入り口はリスクがなさそうでも、先がぎっちりしているようであれば、近づかない。外から見て大丈夫でも、中は危険な状況になっていることがあることを教訓として知っておいたほうがいい」(川口教授)

(AERA dot.編集部・吉崎洋夫)

著者プロフィールを見る
吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

吉崎洋夫の記事一覧はこちら