広島地裁の判決に抗議して行われたフラワーデモ
広島地裁の判決に抗議して行われたフラワーデモ
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作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、実父からの性被害訴えの棄却判決について。

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 幼少期から中学2年生になるまで、長期間にわたり実父から性被害を受け続けた40代の女性が70代の実父に損害賠償を求めた民事裁判で、10月26日、広島地裁は女性の訴えを棄却した。裁判所は女性側が主張する事実を認めながらも、損害賠償を請求できる期間「除斥期間=20年」が過ぎていると判断したのだ。「性暴力はあったけど、訴えるのが遅かったですね」と言われたようなものだ。この判決に抗議するフラワーデモが11月11日に広島市で行われ、私も参加した。

 子どものころの性被害は、そもそもそれが性暴力だと理解できなかったり、実父や親族からのものともなれば、加害者から「これは秘密だよ。秘密をばらすと、家族がバラバラになってしまうからね」などと巧妙に口止めされたりして、被害を口にすることができない。また今の刑法では、強制性交等罪の公訴時効が10年と定められているため、成人した被害者が幼いころの被害を訴えることはとても難しい。また、あまりのつらさに封じ込めた記憶が成人してからよみがえってしまい、何年も経ってからPTSDを発症することは珍しくない。

 この女性も10代や20代で実父を訴えることはできなかった。30代後半になり幼いころの記憶に苦しみ、対人関係で問題を抱えて生きることが困難になり、性暴力被害者救援団体に助けを求め支援につながったという。そういう性被害者の時間の経過、PTSDへの理解が、今回の広島地裁の判決には欠けていた。2015年に最高裁が、30年以上前の幼少期の性被害に対する損害賠償の訴えに対し、除斥期間の起算点を事件のあった時期ではなくうつ病の発症の時期と認めたことを踏まえても、広島地裁の判決は時代に逆行しているといえるだろう。

 フラワーデモには、女性の代理人となった寺西環江弁護士も参加してくださった。仕事を通してDV被害者や性暴力被害者とたくさん出会ってきた寺西弁護士のスピーチは、胸に迫るものがあった。今回の判決を受け、女性は「ハンマーで頭を殴られたほどの衝撃」を受けたと、寺西弁護士に伝えたという。寺西弁護士は、性差別社会が性暴力根絶を難しくしている現実について抗議し、性被害者の闘いは尊厳を取りもどす闘いなのだ、と熱く語った。

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家庭のなかで起こる性被害