吉永さんが初めて五島列島の地を踏んだのは、2011年。ギタリストの村治佳織さんとのプライベートな旅だった。
「教会を見に行ったんですね。ずっと五島を回って、ひとつずつ見ました」
吉永さんは遠藤周作氏の『沈黙』を読んで以来、長崎のキリシタンがどのような生活をしていたのか、興味を持つようになったという。
初めての五島列島では、椿の美しさも知った。
「群生しているのを見たんですね。本当にきれいでびっくりして。桜ばかりに心を奪われていましたけど、椿の花の美しさに惹かれました」
3月に訪れたその旅で、吉永さんはある光景を見て心が揺れた。福江港から長崎に出航するフェリーでの“別れ”だ。
「(船に乗っていた)若い人が、紙テープを持って。送る側の人たちも一生懸命手を振られていたのを見て、胸が熱くなりました」
五島列島では若い人が従事する産業が少なく、毎年高校卒業生の90%以上が島を離れるという。
「五島の椿」は、持続可能な産業と雇用を創出する産学官民連携・地域活性プロジェクトの一環で誕生した。
「若い人の働く場所がもっと増えるといいなあと思いまして。応援したいとお引き受けしました」
椿を思わせる深紅のワンピースに身を包み、五島への愛を語り続けた。(本誌・菊地武顕)
※週刊朝日 2023年3月10日号