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 日本では同性愛カップルは合法的に結婚できない。そこで考えたのは響さんの母の養女に一恵さんがなることだった。このため一恵さんと響さんは戸籍上、姉妹になっている。 2人にとって、子供を持つという発想は当初まったくなかった。「子供のいる人生なんて想像もしていませんでした」と響さんは言う。

 2018年に設立された「こどまっぷ」という団体がある。LGBTQで子供を持ちたいと思っている人の交流会も主催している。同年5月3日、同性カップルらのためのイベント「LGBTQファミリーピクニック」があり、一恵さんらは参加した。その中にすでに子供がいる人もいたが、それを目の当たりにしたとき、「何となく子供が欲しいと思うようになった」という。世界最大の精子バンクであるクリオスの存在を知ったのもそのときだった。

「子供のいる同性カップルもいますが、話を聞くと、ゲイの男性が精子ドナーになって一緒に子育てをするとか、パートナーの男兄弟の精子を使うとか、そういう話がほとんどでした。でも、『知人男性の精子』というところに拒否反応があり、もし途中で男性の気が変わって親権を主張し始めたりしたら何が起こるか想像がつきません。私たちは私がパパで響がママであるという役割分担をしているので、それ以上、“親”は必要ありません。精子バンクを使うというのは命の種を買うという気持ちです」。一恵さんはそう話す。

 響さんも「精子バンクから精子を買うなら、命の種を買うだけという気持ちで、そこには生身の人間の存在がありません」と言う。ネットで精子を提供する男性がいるが、そういう精子は何の検査もされず、クリオスが課すような厳しい検査は一切しないのでリスクが大きすぎるため、その選択もあり得なかった。

■子供を持つ人生にリアリティが出てきた

 1年近く、子供を持つという人生も考えていたが、具体的な行動までは起こさなかった。翌2019年4月、「こどまっぷ」に連絡して、精子バンクについて具体的に話を聞きに行った。クリオスはすでに日本の窓口を開設していたが、一恵さんらは知らなかった。

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最終的に選んだのはイタリア人学生の精子