精子を1本注文した。液体窒素で凍結されたまま送られてくるので重さは20キロくらいあった。その中に入っているのは精子が0.5ミリグラムだ。税関から電話があった。内容品が「精子」なので引っかかるかもしれないと思ったが、すんなり通関できた。自宅に配達された。液体窒素の期限まで残された日はわずかだった。送料と精子購入代を合わせると40万円足らずだった。送料が高かったという。
響さんは排卵日チェッカーを使って排卵日を把握していたので、排卵日と液体窒素の期限に合わせて自宅で人工授精を行った。とりあえず、産科クリニックに行かずに自宅で行った。
「解凍の仕方は伊藤さんが翻訳してくれたものを使い、動画を見ながら、精子の入ったストローからシリンジを使って行いました」そして自宅で妊娠検査をしたところ、陽性と出た。クリオスを使った場合の人工授精1回あたりの妊娠率は22.3%という。とはいえ、海外と日本とでは一概に比較できず、妊娠率は高いとは言えない。伊藤さんも、妊娠は簡単ではないことを相談者に伝えているという。こうした点からも、一恵さん・響さんカップルがいかに幸運だったかがわかる。
地元のクリニックで初診してもらった。問診票の<妊娠成立のお相手>のところには、正直に<海外の精子バンク>、そして<パートナー>のところには<一恵>と記入した。さらに<病院に求めること、気になること>のところには<同性パートナーを配偶者と同じように扱ってほしい>ことと、<立ち会い出産をしたい>と記入した。
「そのクリニックでは『前に女性同士の立ち会いもあったから大丈夫です』と言われましたが、その後、そのクリニックでは産めないと言われ、別の病院に転院することになりました」(響さん)。その後、胎児は順調に育ち、2020年4月、無事出産した。私とのZoomインタビューの際、画面ごしに映る2人の間には、人形のように可愛らしい赤ちゃんも映っていた。3人の姿は幸せの絶頂のように見えた。