「親は2人とも日本人女性なのに、子供は外国人のハーフという人たちがいたので聞いてみると、海外の精子バンクから精子を買って子供を作ったと教えられました。その子が私になついてキスしてくれました。それから子供を持つ人生にリアリティが出てきたのです」(響さん)。一恵さんも「子供のいる人生もありかな」と初めて思ったという。
そのピクニックには50人ほど参加したが、すでに子供がいるゲイカップルもいれば、これから子供を持つことを考えているカップルもいた。そのときに「こどまっぷ」の人から精子バンクのことを教えてもらった。自宅に戻ってすぐにウェブサイトを見たが、英語だったので、詳細は飲み込めなかった。まだ日本に窓口ができる前のことだ。
「最初は『こんなふうに精子が選べるんだ』とサイトを眺めているだけでした、精子バンクに関する知識がまったくなかったので、自分たちの中でもかみ砕く時間が必要でした」。 響さんはそう話す。クリオスがドナー登録までに感染症や遺伝病の有無など厳しい検査を課していることも知った。自分たちが懸念していることがクリアされていると確信した。
■最終的に選んだのはイタリア人学生の精子
クリオスが東京都内に窓口を開設したのは2019年2月のことだ。伊藤ひろみさんはそのディレクターを務めている。一恵さんらはその年の9月から始める予定だったが、デンマークで法改正され7月からは自宅に精子を送ってもらうことができなくなると知り、あわてて伊藤さんを紹介してもらった(現在は医療機関・医療従事者でなければ精子を受け取ることができない。そのうえ日本では、購入した精子を使った治療を行う機関がきわめて限られている)。その翌日にはドナーを選んだ。
「人工授精なので、まず精子の運動率を重視した。それ以外はドナーの幼児期の写真が私の小さいころの笑顔と似ていたこと。髪と目の色がダークブラウンかブラウンであれば、人種はそこまで気になりませんでした。最終的に選んだのはイタリア人学生の精子でした」(一恵さん)。「出自の告知は、少しでも理解できるようになったら教えていきます」(響さん)