「体の健康は口から始まる」などといわれるように、口の健康は全身の健康を手に入れる第一歩になります。特に歯周病については近年、世界中で研究が進み、いろいろな病気とのかかわりが分かってきました。歯周病ケアの大切さについて理解を深め、将来の快適な生活にもつなげていきましょう。今回は、全身の健康維持に重要な歯周病ケアのポイントを、いりたに内科クリニック院長の入谷栄一先生に聞きました 。本記事は、日本メディカルハーブ協会HPの記事を一部改変してお届けします。
【チェックリスト】今すぐチェック!歯周病が進行していない!?
* * *
■歯茎が炎症を起こす歯周病は成人が歯を失う最大の原因
歯周病は、プラーク(歯垢)内の細菌の感染によって起こる炎症性疾患です。プラークは食べ物の残りかすや糖分と口の中の細菌によってつくられる物質で、その中の歯周病菌が歯と歯肉(歯茎)のすき間に侵入して炎症を引き起こします。
歯茎の縁の部分が炎症を起こす「歯肉炎」から始まり、歯と歯茎の間に歯周ポケットというすき間ができ、プラークがたまって炎症がさらに広まる「歯周炎」へと進行していきます。この段階になると、腫れ、出血、膿、口臭などが現れ、やがて歯を支える歯槽骨が溶けて歯がぐらつき、最終的には歯を抜かなければならなくなってしまいます。
歯周病は成人が歯を失う最大の原因ですが、多くの場合、初めのうちは自覚症状が乏しく、気づかないうちに進行してしまうため注意が必要です。
■全身の健康を維持するために歯周病ケアが大切なわけ
歯周病があることは、口の中で常に炎症が続いていることを意味します。近年の研究で、その際につくり出される毒性物質や歯周病菌が歯肉の毛細血管を介して全身に運ばれ、様々な病気を引き起こすリスクを高めることが分かってきました。現在、歯周病との関連が指摘されている病気には、次のようなものがあります。
●糖尿病
歯周病の病巣から放出される物質が血糖値を下げるインスリンの働きを悪くし、糖尿病が悪化しやすいことが分かっています。また、糖尿病があると歯周組織の抵抗力や口腔内の自浄作用が低下するため歯周病が重症化しやすく、歯周病と糖尿病は相互に影響し合う関係にあります。
●心臓・脳・血管の病気
血管内に歯周病菌を含むプラーク(粥状の沈着物)ができて血液の流れが悪くなり、動脈硬化を悪化させます。プラークがはがれると血管を詰まらせ、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などの発症リスクが高まります。歯周病をもつ人は、脳梗塞のリスクが2.8倍になるといわれます。
●早産(低出生体重児)
妊娠している女性が歯周病に罹患していると、低出生体重児や早産のリスクが高くなることが分かっています。歯周病菌が血中に入り、胎盤を通して胎児に感染するのではないかと考えられており、低出生体重児や早産のリスクは7倍にものぼるといわれています。
●誤嚥性肺炎
細菌が食べ物や唾液と一緒に気管や肺に入ると、肺炎を起こすリスクが高まります。高齢者に多い誤嚥性肺炎は、死亡の原因ともなります。
これらの他にも、呼吸器疾患、関節リウマチ、骨粗鬆症、がん、認知症など様々な病気と歯周病との関連が報告されています。こうした病気を予防するためにも、歯周病ケアはとても大切な要素なのです。
中等度以上の歯周病の人の割合は、45歳を超えると過半数を占めるようになります。初期の歯周病の人を含めると、成人の3人に2人は歯周病といわれています。
■プラークだけが原因ではない。歯周病のリスクファクターとは
ほとんどの人の口の中には、歯周病の原因となる菌が存在するといわれています。これらは体が健康な時はあまり悪さをしませんが、体の抵抗力が落ちると細菌に感染しやすい状態になり、容易に歯肉の炎症を引き起こします。過労やストレスが続いた時などに、一気に歯周病が悪化してしまうことがあるのはこのためです。
また、喫煙、口呼吸、歯ぎしり、間食といった生活習慣や、糖尿病などの基礎疾患、感染症なども歯周病を進行させる原因となります。女性の場合、妊娠中や出産後、更年期などホルモンバランスがいつもと違う状態の時には歯周病が悪化しやすいので注意が必要です。
歯周病は初期であればブラッシングで炎症を抑え、再発を防ぐことができます。少しでも気になる症状があれば早めに歯科を受診し、その後も定期的なチェックを怠らないようにしましょう。
■今日からさっそく実践!歯周病ケアのポイント
<POINT1> 正しい歯磨き
丁寧なブラッシングで、しっかりと汚れを落とすことが最も大切です。毎日歯を磨いているのに虫歯や歯周病になる人は、正しく磨けていない可能性があるので、歯科でブラッシングの指導を受けましょう。歯間ブラシやデンタルフロスもプラークの除去に有効です。
<POINT2>禁煙
喫煙は免疫力を低下させて歯周組織の抵抗力を弱め、歯周病菌の増殖を助長します。また、喫煙していると出血しにくいため、歯周病に気づくのが遅れることもあります。喫煙者は吸わない人に比べ、歯周病リスクが2~8倍といわれます。
<POINT3> 定期的な歯科検診
かかりつけ歯科医をもち、特に症状が出ていなくても少なくとも年に1度、可能なら半年に1度はチェックとクリーニングなどプロのメンテナンスを受けましょう。歯垢が固まって歯石になるとブラッシングでは落とすことができません。ブラッシング法も定期的に指導してもらうと安心です。
<POINT4>食生活の見直し
だらだら食いや間食が多いと口腔内が酸性に傾き、虫歯や歯周病ができやすくなります。甘いもの、やわらかいものは歯に付着しやすく、プラークの原因に。噛み応えのある食べ物をよく噛んで食べることは、歯と歯茎の健康に役立ちます。
<POINT5>体の抵抗力を落とさない
ストレス、過労、睡眠不足などは歯周組織の抵抗力を弱め、歯周病菌の増殖を助長します。また、自律神経の乱れを引き起こして唾液の分泌が悪くなり、口腔内の自浄作用が低下する原因ともなります。
<POINT6>口呼吸をしない
口呼吸で口の中が乾くと、唾液による自浄能力が下がり歯周病菌や虫歯菌などが繁殖しやすい環境になります。また、細菌やウイルスが侵入しやすくなり、全身の免疫力も低下するといわれます。意識的に口を閉じるよう心がけましょう。
監修/入谷栄一(いりたに・えいいち)先生
いりたに内科クリニック院長。総合内科専門医、呼吸器専門医、アレルギー専門医。日本メディカルハーブ協会顧問。東京女子医科大学呼吸器内科非常勤講師。在宅診療や地域医療に力を入れる他、補完代替医療やハーブ、アロマに造詣が深く、全国各地で積極的に講演活動も行う。著書に『病気が消える習慣』、『キレイをつくるハーブ習慣』(経済界)など。