「silent」で主演を務めた川口春奈
「silent」で主演を務めた川口春奈
この記事の写真をすべて見る

 川口春奈主演の連続ドラマsilent」は、サブスクによる見逃し配信の累計再生数が歴代最高となる4600万回(12月7日時点)を記録し、Twitterでも世界トレンド1位を何度も獲得。今クールのドラマの中で最も大きなブームを巻き起こしたが、22日に無事フィナーレを迎えた。ドラマウオッチャーの中村裕一氏が、「silent」が社会現象になった背景を分析した。

【silentのロケ地はこちら(11枚)】

*  *  *

■優しい未来を予感させる最終回の結末

 高校時代につき合っていたが卒業とともに別れ、それから8年後、東京で偶然再会した青羽紬(川口春奈)と佐倉想(目黒蓮)。年月の経過はそれぞれに変化をもたらしていた。紬は同級生の戸川湊斗(鈴鹿央士)と交際しており、想は聴覚を失い「音」のない生活を過ごしていた。しかし、再会をきっかけに、自らの気持ちに改めて気づいた2人は、互いの今の暮らしや立場を尊重しつつ、少しずつ距離を縮めていく。

 そして迎えた最終回。たくさんの思い出が詰まった高校の教室で待ち合わせた紬と想は、これから先も寄り添い合い、一緒に歩いていくことを誓い合うのだった。

「誓い合う」と言っても、声高に何かを宣誓したわけではない。淡々とした描写および結末だったと感じた人もいるかもしれないが、そもそもドラマだからといってドラマチックに飾り立てる必要は全くない。私には二人の心の声が確実に聞こえたし、優しい未来が待っていることを感じさせる、「silent」らしい、静かで前向きな終わり方だった。

■最後まで貫いた“引き算の美学”

 では、なぜ本ドラマはここまで支持を受けたのか? 改めてこの作品を振り返ると、“引き算の美学”を貫いたドラマだったように筆者は思う。

 まず一つ目はセリフの極端な少なさ。

 特に、最終回の教室のシーンではなんと10分以上、二人がまったくセリフを発せず、黒板に書いた文字や手話で“会話”をした。そしてクライマックスとなるラストシーンは過去と現在を交差させながら、想が紬の耳元で何かをささやき、ほほ笑み合うシーンで幕を閉じた。

次のページ
小津安二郎の映画にも通じる雰囲気