一方で、台湾への武力行使には簡単には踏み切れない事情もある。民主・自由の価値観を守りながら世界最先端の半導体製造能力を有する台湾は、国際社会にとって、理念的にも、経済的にも、大事にしなくてはならない存在になっている。台湾への強硬姿勢はとりわけ世界での評判を落とすことにつながる。
中国にとって幸いなことに、2022年11月の台湾の統一地方選で、中国と関係が良好な国民党が大勝し、民進党優勢の政治状況に変化の兆しが見られた。2024年1月に予定される総統選の行方はまだ定かではないが、せっかく台湾の世論に「民進党離れ」が見えかけているだけに、ここで無理に圧力一辺倒の強硬路線をとっては、敵対勢力と位置付ける民進党に「塩を送る」ことになりかねない。
当面は、軍事・経済両面から一定のプレッシャーをかけて民進党を選ぶといいことはないと台湾世論にアピールしながら、台湾政治の展開を見守り、国民党が本当に政権復帰するかどうか総統選の結果を待つのではないだろうか。
中国の台湾政策は、常に「平和的統一」と「武力統一」の両にらみで展開されている。習近平体制になって民進党政権の時代が続いているなかでは、平和的統一が後退し、武力統一が前に出てくることになり、国際社会に「台湾有事」のリアルな恐怖を植え付けることになった。
もし次の総統選で国民党が勝利を収めた場合、武力統一という強面の顔はいったん収め、平和的統一のための懐柔策、中台の一体化に邁進するはずである。仮に民進党が再び勝利して政権を守った場合、5月の新総統の就任による新しい台湾の中国政策を見極めたうえで、それが満足のいくものでなかった場合は、かつてない台湾への厳しい行動に出てくる可能性がある。
いずれにせよ、2023年の台湾海峡が大きく荒れる可能性は高くなく、本番は2024年にやってくるだろう。
2022年は、「鄧小平時代」から「習近平時代」へ完全に切り替わった節目の年になった。鄧小平時代はとうに終わっていると思われるかもしれないし、習近平時代もとうに始まっていると思われるかもしれない。しかし、中国共産党の統治システムはなお「ストロングマン政治」で、人々は偉大な指導者の「遺言」に縛られ続ける。