首相の最有力候補は、政治局常務委員になった李強だが、20年ほど前に、習近平の秘書を務めたところから一気に出世街道に上った人物である。経済人を生み出す土地として知られる「温州」の出身で、如才ない振る舞いは一見、経済運営に向いているようにも思える。しかし、本来は中国の首相は経済運営の全権を担うため、経済担当の副首相などで経験を積むことが求められる。
ところが習近平に気に入られたおかげか、「ヘリコプター」と呼ばれる急出世を遂げた李強は、上海市書記(トップ)を経験しただけで、中央の経済政策はまったくの未経験。14億人の人口を擁する世界第2位の巨大経済の舵取りには不安が残る。
もともと経済成長の低下は回避し難い長期トレンドであるが、コロナによって減速感は強まっている。世界銀行が2022年12月に発表したリポートで、同年の中国の経済成長率予測を2.7%に下方修正した。今年の成長率予測も4.3 %に引き下げている。一方、中国政府は2022年の経済成長率を5.5%と設定していた。
しかし、ゼロコロナ政策とその終了による感染拡大で、中国経済は少なくとも今年上半期の動きは鈍くなるだろう。もし世銀の予測が正しかった場合だが、ゼロコロナ政策の遂行に、22年だけで7000億ドル近い「コスト」を伴ったことを意味している。この金額はスウェーデン一国の経済規模(名目GDP)よりも大きい。現在問題になっている急速な感染拡大によって「コスト」は高まる。
党大会を終え、「政治の季節」から「経済・外交」にシフトしようとしていた矢先だけに、習近平体制にとっては頭の痛い問題になっている。
習近平政権は、特に2期目において世界に広がった対中警戒感を緩和することを目指しているようで、習近平自らが前面に出る形で、米中首相会談をはじめ、精力的に各国首脳との会談を重ねている。タイでの日中首脳会談で岸田首相に見せた習近平のほほ笑みは、対日関係の改善だけではなく、対中包囲網の解体と中国独自の外交空間の確立という大きな目的があるからに他ならない。
ただ、状況を難しくしているのが台湾問題である。
党大会で、習近平は腹心の人民解放軍幹部を、共産党中央軍事委員会の副主席に抜擢するなど「台湾シフト」を思わせる人事を差配した。党大会の政治報告では「台湾への武力行使は絶対に放棄しない」と国内外に向けて宣言。今後の任期中に台湾問題の解決を意識した行動を取ってくる可能性は高い。