その後の検査で、病気の詳細が判明した。「類上皮血管肉腫」と「類上皮肉腫」という二つの希少がんを併発。世界でも例を見ないケースだという。
このときも動画内で、「『新人類』ですよね。例えば、視覚を失った人って聴覚が良くなるとかいうじゃないですか。左手を失ったから予知能力とか出るかもしれないですよね、新人類なんで。予知能力が出たら、僕は投資します」と笑みを浮かべて前向きにとらえていた。
YouTube動画のコメント欄を見ると、宮野さんの前向きな姿勢に「励まされた」「勇気をもらった」というコメントが非常に多い。
「最初は『皆さんも病気に気をつけてください』って注意喚起の動画だったけど、自分が仲間と一緒に面白いと思ってやっていることが、知らない間に他の人の支えになっていることは幸せだなと感じます。同じ病気の人からDMをいただくこともありますし、もっと大変な病気の方もいる。(健常者と)逆の立場で見る機会が増えましたね。物事を多角的に見られるようになりました。例えば、コロナのアルコール消毒を足で押して出てくるタイプでないと、(片腕がないので)難しいし、傘もたたみづらい。全体的にやることなすこと効率は落ちるんです。できないことが多いのが当たり前。それなら、絶対にできることも手伝わそうと、お茶もつがれへんとか。『それはできるやろ』って突っ込まれて(笑)」
会話は笑いで着地する。片腕を切断して芸人を辞めても、お笑いを嫌いになったわけではない。現在も自分でお笑いライブを立ち上げ、MCを務めたりしている。この先に目指す道は何だろうか。
「腕を失って良い意味で特殊になりました。肩書は何でもいいんです。僕はエンターテイナーという立場でYouTubeを続けてテレビにも出て、芸人の同期たちや作家さんと成り上がっていきたい。10年、20年後も一緒にエンタメで面白いことをしたいんです。『生きていれば何とかなるやろ』って思っています」
力を込めた最後の言葉が、重く響いた。
宮野さんは病気のせいで「泣いたことはない」と明かしたが、YouTube動画で明かされていない事実がある。病気が判明後、養成所で所属していたワタナベエンターテインメントの講師が芸人たちに声を掛け、激励のメッセージをまとめた動画を送ったという。宮野さんは左腕切断の手術後に、この動画を見て泣いたという。
「一人じゃないんだって。励ましてくれる仲間がたくさんいることがうれしくて」
涙について多くを語らなかったが、病気に立ち向かった強い精神力だけが本質ではない。人情味あふれる姿も仲間たちに愛される理由だろう。
(今川秀悟)