80歳男性の場合、室温25度で血圧は最低になるが、この時点で最高血圧はすでに139ミリHgもある。室温が20度から10度まで低下すると、血圧は10.2ミリHgも上昇して約150ミリHgになる。
「家庭での高血圧の基準は135ミリHgですから、この状態ではいつ血管が切れてもおかしくないほどのリスクがある。WHOのガイドラインの18度というのは最低ラインであって、高齢者の場合は部屋をもっと暖かくしなければならない」
と、伊香賀教授は指摘する。
■暖かい家は脳が縮まない
住まいの寒さは疾病だけでなく、高齢者の健康寿命にも大きな影響を及ぼすこともわかってきた。
伊香賀教授らは、まだ自宅で過ごせる要介護認定の人に協力してもらい、「寒めの家」と「暖かめの家」では実際に要介護となる年齢にどのくらい差があるか、調査した。
調査対象者約200人のうち、「寒冷住まい群」(144人)の冬季の居間の平均室温は14.7度。「温暖住まい群」(61人)は17.0度。
「室温以外の条件をそろえて分析したところ、『寒めの家』に住む人たちが要介護となる年齢は77.8歳。『暖かめの家』では80.7歳でした。つまり、室温が約2度上がることで自立生活ができる期間が約3年長くなる。これによって本人の生活の質がよくなるだけでなく、同居家族の生活の質の向上にもつながります」
さらに暖かい住まいは認知機能の維持に影響を及ぼすことも明らかになった。
この調査ではまず64人を「寒冷群(32人、床上1メートルが13.7度、床の近くが11.7度)」と「温暖群(32人、同19.8度、14.0度)」に分けた。被験者に脳ドックを受けてもらい、認知機能をつかさどる「背外側前頭前野皮質」の容積得点を測定した。さらに5年後、再測定して容積得点がどう変化するかを調べた。
「すると、寒冷群の脳が明らかに縮んでいたんですよ。ところが、温暖群は5年後も変化はほぼゼロだった。容積得点の差、3.1というのは統計的に有意な差で、脳年齢でいうと、7歳くらい違う。暖かい家に住んでいることで若い脳を保つことができた」