今回紹介したのは伊香賀教授らの研究のごく一部にすぎない。ほかにも、血栓に関係する血中脂質の異常、トイレが近くなる過活動膀胱、睡眠の質、入浴中の事故、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、足のむくみ、冷え性など、身近な疾病や事故が室温を高めることで改善されることを明らかにしている。

■根本的な解決は断熱改修だが……

 さて、家を暖かくするには暖房が必要だ。

「イギリスでは低所得層向けに暖房用のクーポンを支給しています。経済的に困っている人が真っ先にやることは暖房を止めてしまうことですから。北海道の自治体には灯油代の支給制度があります」

 ただ、暖房器具が石油ストーブの場合、排ガスのなかに水分がたくさん含まれている。

「なので石油ストーブをたくと、結露が大量に発生します。カビが生えて、ダニが繁殖する。それがアレルギー性の病気の原因となり、特に子どもに悪影響を及ぼします。しかも、断熱性能が低い家ではずっと暖房をし続けなければならない。暖房を止めたとたん、あっという間に室温が下がってしまいますから。それに暖房をしている部屋しか暖まりません。足元が寒いのも問題です」

 そんなわけで、「寒い家問題」を根本的に解決するには断熱住宅や断熱改修を普及させる必要がある。

「ただ、断熱改修にはそれなりにお金がかかります。国は断熱リフォームを支援するために補助金事業を行っていますが、補助金を使ったとしても、1軒の家をきちんと断熱改修するには200万~300万円はかかる。なので、断熱改修を行ってみようかな、と思うのは経済的に余裕のある人なんです」

■さまざまなメリットと勘案

 最近、エネルギー価格の高騰で増え続ける暖房費が気になっている家庭は多い。窓に断熱シートを貼るなどすれば、断熱効果は得られるのだろうか?

「限定的ですが、効果はあります。居間や寝室の窓に『プチプチ』と呼ばれる緩衝材を貼ってもらうとか、パネルヒーターを支給してトイレに置いてもらうなど、国土交通省の普及啓発事業も行っています。その結果、部屋が暖かくなった人の血圧は下がっています」

 家を暖かくすることは疾病予防や認知機能の維持、介護期間の短縮など、さまざまなメリットがある。長い目で見れば、断熱改修による費用対効果は十分に得られるだろう。

「まずは、自分ができる対策から始めてもらい、一歩ずつ断熱住宅の大切さを知っていただき、一般の人の意識や行動を変えていくことが必要だと思います」

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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