僕は若手の力士の方々にお会いさせていただく機会が多いが、初めて「横綱ってこういう人がなるのかな」と感じた。
で、その落合の横にいた「川副」という力士。現在23歳、昨年の9月にデビュー。
彼もまた期待のホープ。日大で学生横綱だったので、幕下15枚目格付出しでの入門が承認された。落合と同じである。
期待値は高い。今回も勝ち越して、十両までもうちょっとのところまできた。これで十分にすごいんです。彼は握力120の怪力と足腰の粘りで、とても面白い相撲を取る。すごいことなんだけど、あとから入ってきた年下の落合が抜いていったわけである。
学生時代に横綱だった彼が後輩に抜かれていく。川副と話すと「悔しい」とはっきり言う。それもすごいことだと思う。
僕は白鵬杯という宮城野親方が10年以上やっている子供の相撲大会に関わらせてもらっている。川副もその白鵬杯に出ていた。川副という名前が珍しかったので覚えていた。
川副は中学の時に出場し、個人で優勝した。だが、団体戦の取り組みで彼は負けた。表彰式、僕は土俵に上がり表彰状を渡す役だった。その時、川副は個人で優勝したのに、団体での取り組みで負けたから全然嬉しそうじゃなかった。
個人での優勝を喜んでもいいのに、ずっと悔しそうな表情をしていた。
川副とその時の話になった。個人で優勝しても団体の取り組みで年下に負けたのが悔しすぎて、喜べなかったのだという。その時、白鵬が近づいてきて、そんなムスっとした川副に言ったらしい。「個人で優勝してもうれしくないのか?君は強くなるなー」と。
その言葉を胸にずっとやってきて、そしてプロになった。そして、後輩の落合に抜かれて「悔しい」という。十分な結果を出しているのに。
誰かが勝てば誰かが負ける。勝った方ばかりが目立つが、負けた方は、その悔しさをガソリンにして、這い上がるのだ。
みんなファイト!!
■鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。パパ目線の育児記録「ママにはなれないパパ」(マガジンハウス)、長編小説『僕の種がない』(幻冬舎)が好評発売中。漫画原作も多数で、ラブホラー漫画「お化けと風鈴」は、毎週金曜更新で自身のインスタグラムで公開、またLINE漫画でも連載中。「インフル怨サー。 ~顔を焼かれた私が復讐を誓った日~」は各種主要電子書店で販売中。コミック「ティラノ部長」(マガジンマウス)が発売中。