そこで、職員に聞いてもらうと、「写真を撮りたいのか」というので「そうだ」とリクエストすると、
「スペシャルになる」。
つまり、カネを渡せという意味だ。そこで、写真はいいから、と交渉すると、「5ミニッツ(分)ならいいよ。ついてこい」
と案内してくれた。
まず、Aさんや日本人同士が固まっている場所に行くと、タンスやラジオが目に入った。そして、収容者それぞれが携帯電話を持っている。早くも夕食の準備だと、一人の男がしいたけなど野菜を刻んでいた。
そして、別の部屋ではインド人らアジア系の男たちが2段ベッドのある部屋にすし詰め状態になっていた。大半が全身を入れ墨で覆い、私のような場違いな人間には、刺すような鋭い視線が一斉に集まる。携帯電話を手にしながらトランプでカードゲームに興じ、堂々と「賭博」が行われていた。
人の熱気でムッとしており、独特の異様なにおいに一瞬、息を止めた。
シャワー室があったが、水しか出ない。掃除はほとんどされていないようで、床は真っ黒だった。その時点ですでに、約束の5分を大幅に過ぎ、20分くらいになっていた。
案内してくれた職員に促されてゲートに向かう途中、職員は腕に大きな入れ墨が入った中国系の男の収容者と親しそうに話し始めた。
話が終わるのを待って、また一緒に歩き出すと、
「あれは、ここのボスと言われる男。香港人らしく、大金持ちだ。エアコンにシャワー、テレビ完備のVIPルームに、月10万円ほど出して入っている。カネがあれば好き放題できる。ボスのカネ目当てで寄ってきたのか、料理担当、洗濯担当など何人かの子分がいる」
と教えてくれた。
数年後、Aさんは日本に帰国することができた。そのAさんと入れ替わるように、日本人のBさんがビクタン収容所に入った。
Bさんは東北地方の出身で運送関係の仕事をしていたが、東日本大震災でトラブルに巻き込まれ、フィリピン人の交際相手を頼りにマニラにやってきた。