今回の東工大と医歯大の統合は、前述のように指定国立大学法人同士であり、しかも1法人1大学を目指すという点で注目に値するが、以下に述べるように統合には疑問を感じる。
■言い尽くされた理念目標に目新しさは感じられない
ここで2022年10月14日に両大学で締結された4項目からなる基本合意のうち2項目目と3項目目の概要について言及したい。
2項目目には「多様な社会課題に立ち向かうために、理工学、医歯学、さらには情報学、リベラルアーツ・人文社会科学などを収斂させて獲得できる総合知に基づく『コンバージェンス・サイエンス』を展開します」と書かれている。また、3項目目には「教養教育と専門教育を有機的に関連させ、現代社会が直面する諸課題に対峙して、真に解決すべき 課題を設定し、解決へと導く役割を担う高度専門人材を輩出します」と謳っている。しかし、これらのことは他大学の改組の際にも言い尽くされてきた理念目標であり目新しさはどこにも感じられない。ちなみに俯瞰的・総合的教育研究を目指して、1974年に初めて広島大学に総合科学部が誕生し、その後にも他大学に同じような理念目標を掲げた学部が誕生している。
今回の東工大と医歯大の統合で、この2項目目と3項目目をどう達成するのか、特に人文社会系の教育研究をどう取り入れるのか、両大学とも理系の単科大学であることを考えると極めて心配になる。
■専門バカをつくらない、は何を意味するのか
2022年11月1日、両大学の学長の話をテレビで長時間、聴いた。両大学とも、単科大学としての危機意識を持ち、理工学と医歯学を連携させて、新領域分野を創生、地球環境問題、感染症、少子高齢社会などの新たな地球規模の問題解決を目指すという。このことは、前述の基本合意の2項目目、3項目目を易しく言い換えているのだが、この目標も、以前から言い尽くされてきた大きなテーマで、まったくもって新しさを感じない。しかも、理工学と医歯学の連携は以前から、他大学内及び他大学間でも行われてきた。だから、両大学長の説明からは統合する確固たる理由が残念ながら伝わってこず、統合の理由としては説得力に欠ける。