「初めて社長とじっくり話すことになり『先生の活動のゴールは何ですか?』と聞かれました。『健康と通じた、人と組織の活性化です』と答えると、社長も深く同意してくださった。社員が心身ともにプラスになる会社を一緒につくろうと盛り上がったのです」

 以来、社内の健康推進の取り組みに邁進してきた小島医師。16年から始めた「ウェルビーイング推進プロジェクト」では、全社から立候補で集まったメンバーが心身の健康向上のための企画を自由に立案・実践している。

ウェルビーイング推進プロジェクトのメンバー (提供写真)
ウェルビーイング推進プロジェクトのメンバー (提供写真)

「地域の中高生と一緒に『普段は言えない感謝の気持ち』を書いた約1400枚のカードを中野店に掲示したり、女性の健康問題を解決するフェムテック製品を集めて新宿本店で体験イベントをしたり、多彩なアイデアを実現してきました。社員の健康づくりだけでなく、地域や社会の幸せにつながる内容に発展してきたと感じています」

 同じく16年から続く「レジリエンスプログラム」は、部長以上の役職者が対象だ。仕事で成果を出すために心身を整える大切さを学び、困難な状況を乗り越える術を語り合う。受講後にはその部下や家族から、「本人がどう変わったか」を評価してもらう。

レジリエンスプログラムを受講した社員の家族から届いたメッセージ。健康づくりへの意識だけでなく、前向きな考え方が浸透していることが読み取れる
レジリエンスプログラムを受講した社員の家族から届いたメッセージ。健康づくりへの意識だけでなく、前向きな考え方が浸透していることが読み取れる

「社員の健康促進には上層部の理解が不可欠です。彼らは孤独を抱えていたり、長年の不健康な生活習慣の改善が難しかったりもするので、この層への働きかけは必須だと考えました」

レジリエンスプログラムを受講した社員の家族から届いたメッセージ。健康づくりへの意識だけでなく、前向きな考え方が浸透していることが読み取れる
レジリエンスプログラムを受講した社員の家族から届いたメッセージ。健康づくりへの意識だけでなく、前向きな考え方が浸透していることが読み取れる

 19年に役員就任を打診された時はとても驚いたが、働く人を大事にする企業姿勢を改めて感じて引き受けた。

「何よりのやりがいは、生き生きと輝く仲間の姿を見たり、そのポジティブさが周囲に波及するのを実感したりすること。レジリエンスプログラムに参加した部長の小学生の娘さんから『最近のお父さんはお酒を飲むことが減ってたくさん遊んでくれるようになりました』というお手紙をいただいたことも。私も本当にうれしくなりました」

(林 菜穂子)

※週刊朝日ムック『医者と医学部がわかる 2023』より

小島玲子(こじま・れいこ)/医師。2000年、産業医科大学卒業、臨床研修。2002年、大手非鉄金属メーカーの専属産業医を務める傍ら、横浜労災病院の心療内科で外来診療を担当。2006年、北里大学大学院医療系研究科産業精神保健学に社会人大学院生として進学。2010年、医学博士号を取得。2011年、株式会社丸井グループ専属産業医に。同健康推進部(現ウェルビーイング推進部)部長、同執行役員を経て、2021年より同取締役執行役員CWO(Chief Well-being Officer)。