「私はフィリピンで生まれ育ち、中学1年で日本に来ました。そのため、日本語と漢字の勉強を一生懸命やりました。高校入学後も日本語の勉強を頑張って、将来はキャビンアテンダントになりたいです」

 女子生徒は定時制高校を受験するという。ふれあい館の黄浩貞(ファンホジュン)さんは、こう話す。

「全日制の普通科高校の試験は特別枠を除き5教科ですが、定時制なら国語、数学、英語の3教科。外国につながる子どもたちの受け皿になっています」

 外国人が多く暮らす自治体で構成する「外国人集住都市会議」の調査では、外国籍生徒の進路の21%が定時制高校だった。理由は受験のしやすさだけではない。

「2千円の月謝を払えない家庭もあります。様々な事情を抱えた家庭が多く、働きながら学べることも、人気になっている理由でしょう」(黄さん)

 日本語指導が必要な子どもたちにとって高いハードルとなる高校受験。それを乗り越えたとしても、卒業までの道は険しい。日本語指導の必要な高校生の中退率は9.6%と、全高校の1.3%と比べ、相当高い。ここでも日本語力がネックになっている。外国籍の生徒が多く通う定時制高校教諭は、

「コミュニケーションがとれないため友達ができずに孤立し、中退するケースは多い」

 日本語指導が必要なのに、公教育につながれずにいる子どもたち。外国籍の子どもの就学に詳しい小島祥美・愛知淑徳大学准教授はこう指摘する。

「政府は『希望すれば学ぶ機会は保障される』という立場だが、恩恵的に許可されているに過ぎず、保護者が就学手続きをしない限り、子どもは不就学の状態におかれてしまうのです」

 そのうえで小島准教授は「行政は、外国人への就学案内を徹底するべきです」と指摘する。

 外国人労働者の増加で日本語教育が必要な子どもたちは今後も増え続けていくだろう。政府は不就学児童の実態を受け、新年度からは義務教育年齢の子どもを把握する学齢簿の作成などに乗り出す見込みだ。

 多くのボランティアに支えられる外国籍児童らへの日本語指導現場への対策も必須だ。国家資格として日本語教師を創設する動きもあるが、

「日本語教師の給与水準は低く、食べられる資格にならなければ保育士のように使われずに終わってしまう」

 都内の日本語学校に勤める日本語教師はそう切り捨てた。(ジャーナリスト・澤田晃宏)

AERA 2020年3月9日号より抜粋