左から羽仁高滉さん、矢座孟之進さん、土屋駿さん。3人とも、取材を通して原発に対するこれまでの考え方が変わっていった、と振り返る(撮影/写真部・小黒冴夏)
左から羽仁高滉さん、矢座孟之進さん、土屋駿さん。3人とも、取材を通して原発に対するこれまでの考え方が変わっていった、と振り返る(撮影/写真部・小黒冴夏)
映画のワンシーン。「日本一大きいやかん」とは「原発」のこと。5月末にドイツで開催されるハンブルク日本映画祭での上映も決定した(矢座さん提供)
映画のワンシーン。「日本一大きいやかん」とは「原発」のこと。5月末にドイツで開催されるハンブルク日本映画祭での上映も決定した(矢座さん提供)

 都内の高校生3人が、原発について考えるドキュメンタリー映画を製作した。小遣いで機材を買い、各地を飛び回り取材を重ねた。原発問題は、「一人一人が考えなくてはいけない」と言う。

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「何とか、原発賛成派と反対派の『橋渡し』をしたかった」

 ドキュメンタリー映画「日本一大きいやかんの話」の監督を務めた、矢座孟之進(やざたけのしん)さん(17)は振り返る。東京都練馬区にある東京学芸大学附属国際中等教育学校の5年生(高校2年生)だ。

 趣味はピアノで、映画製作の経験はゼロ。そんな矢座さんが映画を撮ろうと思ったのは、同校3年(中学3年)3学期の社会科の授業がきっかけだった。「原発」をテーマに、クラス約30人が「賛成派」と「反対派」に分かれて討論した。賛成派は具体的なデータに基づいてひたすら原発の必要性を説き、一方の反対派は東京電力福島第一原発事故を念頭に、福島に対する思いを語った。共通のゴールが見えず、討論は平行線をたどった。

「こういうディスカッションは初めてで、気持ち悪さを感じた。議論するにはまずお互いを理解しあうベースが必要だと思った」(矢座さん)

 手法として、視覚的に訴える力のある映画を使うことにしたという。

 そもそも矢座さんは、日本の厳しいエネルギー事情を鑑み、原発「賛成」の立場。映画をつくるにあたり、隔たりなく意見を採り入れたいと考え、「反対派」の羽仁高滉(はにたから)さん(17)と、「中立派」の土屋駿(しゅん)さん(17)、2人のクラスメートを仲間に入れた。

 3人は4年(高校1年)の夏から本格的な取材に取りかかった。米国ミシガン州立大学が主催した研修に渡米して参加し、同大の天文物理学科助教授に取材したのを皮切りに、東京電力、フランス大使館、福島など全11カ所、推進派と反対派の両方を、休みを使って訪ね取材を重ねた。

 課題研究なので予算はない。小遣いを削って旅費にあて、カメラや編集ソフトなど機材は「お年玉と誕生日にもらったお金を使った」(矢座さん)。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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