都内の高校生3人が、原発について考えるドキュメンタリー映画を製作した。小遣いで機材を買い、各地を飛び回り取材を重ねた。原発問題は、「一人一人が考えなくてはいけない」と言う。
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「何とか、原発賛成派と反対派の『橋渡し』をしたかった」
ドキュメンタリー映画「日本一大きいやかんの話」の監督を務めた、矢座孟之進(やざたけのしん)さん(17)は振り返る。東京都練馬区にある東京学芸大学附属国際中等教育学校の5年生(高校2年生)だ。
趣味はピアノで、映画製作の経験はゼロ。そんな矢座さんが映画を撮ろうと思ったのは、同校3年(中学3年)3学期の社会科の授業がきっかけだった。「原発」をテーマに、クラス約30人が「賛成派」と「反対派」に分かれて討論した。賛成派は具体的なデータに基づいてひたすら原発の必要性を説き、一方の反対派は東京電力福島第一原発事故を念頭に、福島に対する思いを語った。共通のゴールが見えず、討論は平行線をたどった。
「こういうディスカッションは初めてで、気持ち悪さを感じた。議論するにはまずお互いを理解しあうベースが必要だと思った」(矢座さん)
手法として、視覚的に訴える力のある映画を使うことにしたという。
そもそも矢座さんは、日本の厳しいエネルギー事情を鑑み、原発「賛成」の立場。映画をつくるにあたり、隔たりなく意見を採り入れたいと考え、「反対派」の羽仁高滉(はにたから)さん(17)と、「中立派」の土屋駿(しゅん)さん(17)、2人のクラスメートを仲間に入れた。
3人は4年(高校1年)の夏から本格的な取材に取りかかった。米国ミシガン州立大学が主催した研修に渡米して参加し、同大の天文物理学科助教授に取材したのを皮切りに、東京電力、フランス大使館、福島など全11カ所、推進派と反対派の両方を、休みを使って訪ね取材を重ねた。
課題研究なので予算はない。小遣いを削って旅費にあて、カメラや編集ソフトなど機材は「お年玉と誕生日にもらったお金を使った」(矢座さん)。