2007年から約12年間、アエラでコラムを連載していたぐっちーさんが亡くなって約5カ月。トランプ大統領誕生から、亡くなる直前に書かれた絶筆までの177本を完全収録した遺作、『ぐっちーさんが遺した日本経済への最終提言177』が2月21日に発売された。そんな177本から、編集者が真っ先に読んでほしいと思った「名作」トップ10を厳選。その中から10位「タイガー復活の予測が経済を見る目のカギ」を紹介する。
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今回のテーマはサプライズと経済です。時を同じくして、とんでもないサプライズが起きました。一つはタイガー・ウッズのマスターズ復活劇。もう一つはフランス・ノートルダム大聖堂の火災です。
タイガーの復活には世界中が感動したのではないでしょうか。敵なしだったタイガーがどん底に落ちるのにそれほど時間はかかりませんでした。一時期は廃人同然と言われ、ゴルフをすることすらおぼつかなかったタイガーが、十数年の時を経て世界最高峰のマスターズのチャンピオンに返り咲いたのです。一方、ノートルダム大聖堂の火災も世界中にショックを与えたサプライズと言えるでしょう。
経済や市場では「サプライズ」が多々起きるわけですが、そこにはどんな関係が潜んでいるでしょうか。
経済学というのは元々の前提条件がかなり怪しく、とても「科学」と呼べる代物ではない、とよく言われます。「ロビンソン・クルーソーが住んだような全く人が出入りをしない状況を設定する」とか、「人は必ず何かを交換する」=バナナを10本持っている人は生産力が上がって100本になれば必ず他のものに交換する……とか、およそ非現実な前提条件から物事がスタートしており、現実との整合性がないのは明らか。この理論経済学からの分析には全く意味がありません。
現実的に分析を進めると、サプライズには2種類あります。一つは「いつ来るか」はサプライズだけど、あ、やっぱりなー、と思えるもの。自然界では地震、経済なら不況などがこれにあたります。
産業革命にしても、大量生産方式の導入にしても、まさに今進んでいるAI革命にしても、起きているその場では誰もサプライズかどうかわからなかった。ビル・ゲイツがマイクロソフトを、ジェフ・ベゾスがアマゾンを起こしたとき、現在の状況は誰も予想していません。しかし、その革命的な結果は、サプライズというしかありません。
前者は全く予測不可能で、ノートルダムの火災はこちらでしょう。しかしむしろ重要なのは後者であって、これはある意味予測できる可能性がある。実際にアマゾンに投資をした人がいますし、タイガー優勝によって潰れかけているブックメーカーがあるということは、彼に賭けた人がいるわけです。ということで、我々がなすべきことは、まさに第2のタイガーを探すことにほかなりません。
※AERA 2019年4月29日号-2019年5月6日合併号