「LGBTQに対してだけでなく、例えば男性がピアスをしている、というだけでヘイト感情が向けられる。“自分とは違う”人間がいるだけで不安になり、排除しようとする。(独立前の)旧ソ連時代に寛容さのようなものを失ってしまったのかもしれません」
とはいえ、作品に出演したことで伝統舞踊に対する見方は確実に変わった、と言う。
「ジョージアン・ダンスはとても保守的なものなので、若い世代は避ける傾向にあった。でも過去の映像を見れば美しいと思うし、自分たちの文化であることには変わりない。一方的に避けるのではなく、生かしつつ発展させていくことができたら、と思って」
ゲルバヒアニはジョージアについて感情的になることなく、良い点も悪い点もまっすぐに自分の言葉で語ろうとする。来日時の取材はすべてジョージア語ではなく、流暢な英語で行われた。幼い頃から国外のテレビ番組を見て自然に習得したのだという。
彼のような広い視野を持った若者がきっとこれからのジョージア社会を変えていくに違いない。
◎「ダンサー そして私たちは踊った」
ジョージアの国立舞踊団で練習を重ねるメラブの前に、ある日魅力ある青年が現れる。2月21日から公開
■もう1本おすすめDVD 「ポリーナ、私を踊る」
“バレエ・ダンス映画”とジャンル分けされるもののなかには、実在のバレエ団の裏側を追ったドキュメンタリーなども多い。だが、ダンスを通してしか描くことのできない、ドラマ性の強い物語も存在する。「ポリーナ、私を踊る」(2016年)もそんな一本だ。
貧しい家庭環境で育ちながらもボリショイ・バレエ団のバレリーナを目指すロシア人の少女ポリーナ。ある日コンテンポラリーダンスに出合い、すべてを捨てて南フランスのダンスカンパニーへ行くことを決める。伝統やテクニック重視のクラシックバレエから、失恋や挫折といった人生経験がすべて踊りに昇華されるコンテンポラリーダンスの世界へ。なぜダンスは人々の心をつかむのか。観続けていると、その答えが少しだけわかったような気がしてくる。
元パリ・オペラ座エトワールのジェレミー・ベランガールの自然な演技もいい。「ダンサー そして私たちは踊った」のレヴァン・ゲルバヒアニは「現場に身を置き、相手の言葉を聞き、それに反応するように演じた」と口にしていた。普段、言葉を必要としない表現に向き合っているからこそ、気負うことなく演じられるのかもしれない。
◎「ポリーナ、私を踊る」
発売・販売元:ポニーキャニオン
価格4700円+税/DVD発売中
(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2020年2月10日号