ここから重要な役割を果たすのが、地域生活定着支援センターだ。「矯正施設と福祉のつなぎ役」として、厚生労働省が09年から整備に着手。11年には各都道府県に設置、自治体からの委託を受けたNPOや医療機関などが運営している。
神奈川県地域生活定着支援センターは、神奈川県社会福祉士会が運営している。大切な仕事が、対象者に面接し、ときに施設の人と引き合わせるなどしながら「受け入れ先」を確保することだ。冒頭の73歳の男性もこの経緯で横浜力行舎に戻ることができた。しかし、出所日の1週間前にやっと決まることもめずらしくないという。センター長の山下康さん(65)はこう話す。
「出所ぎりぎりまで決まっていないと本当に焦ります。たとえば放火と殺人未遂をやった75歳の男性を、どこがそう簡単に受け入れてくれますか」
並行して行う福祉サービス、障害者手帳、介護保険などの申請手続きにも時間がかかる。なんとか滑り込みで帰住先が決まり、出所日。基本的に地域生活定着支援センターの職員は刑務所まで対象者を迎えに行く。
「私の場合は、必ず『お帰りなさい』と声をかけることにしています」(山下さん)
そのとき、出所した本人がよく口にする言葉があるという。
「『まず、コンビニに寄ってください』。これ、ほとんどの人が言います(笑)。そこで缶コーヒーかたばこを買うんです」
そして、帰住先に本人を送り届ける。行く先は更生保護施設、障害者施設、病院とさまざまだ。
「送り届けた初日はとても気を使います。たとえば3年刑務所にいたアルコール依存の人などは、所内で教育を受けていたとしても、3年間のことを一瞬で忘れて元に戻っちゃうんです。私たちの手を離れたら即、飲んでしまう。救急車で運ばれたり、その日のうちに姿を消したりする方も残念ながらいます」
10年がたった特別調整という試み。何が変わったのか。一つは、刑務所の意識の変化だ。前出の桑原さんはこう話す。