しかし、トランプ氏にとっても、ここは強面姿勢を示さざるを得ない事情もあった。
それは弾劾裁判だ。
民主党が多数議席を握る米下院は昨年12月、政敵であるバイデン前副大統領に打撃を与えるため、トランプ氏がバイデン氏らの「疑惑」を調査するようウクライナ大統領に要求したなどとして、「権力の乱用」と「議会の妨害」で弾劾訴追した。その裁判が上院で近く始まる。
■政界アウトサイダー
訴追した側のペロシ下院議長と、される側のトランプ氏の発言の対照ぶりが、今の米国の現実を象徴している。
「(訴追決議が実現したことは)米国憲法にとっては偉大だが、米国には悲しい日」(決議後の記者会見でペロシ氏)
「(民主党主導による弾劾訴追は)国家にとっては悲しいことだが、政治的には私にとっていいものになりそうだ」(決議前、トランプ氏が記者団に)
1868年に米国史上初めて弾劾訴追されたアンドリュー・ジョンソン大統領は、上院での裁判で1票差で無罪となったものの、政治的求心力を失い再選出馬の道を断たれた。ニクソン大統領もウォーターゲート事件で国民や与党の支持を失い、訴追前に辞職に追い込まれた。
大統領として2人目に弾劾訴追されたビル・クリントン大統領は、ホワイトハウス実習生との不倫疑惑がそもそも弾劾に値するのかとの批判が、党派を超えて根強くあった。
これに対して、トランプ氏が問われたのは、個人的な政治的利益のため、軍事支援を取引材料に外国首脳に介入を求めたという前代未聞の疑惑だ。国益に背く行為などが対象となる弾劾にまさしく値するとの見方で、米国の法律家の意見はほぼ一致していた。
だが、昨秋以来、疑惑を裏付ける事実が次々に明らかになっても、トランプ氏の支持率は下降しないどころか、共和党支持層における支持が9割を超えるなど、結束はむしろ強まった。
そもそもトランプ氏は自らが政界アウトサイダーであることを逆手に、主流政治から見放されてきた層の「味方」を自演して支持を固めてきた。トランプ氏が窮地に陥るほど、コア支持層はまるで自分が攻撃されているかのように反発する。