何かと物議を醸すトランプ氏だが、他国のもめ事になるべくかかわらないようにする非介入主義的な外交政策は、それなりの支持を集めていた。
トランプ氏は「米国人の死傷者はいなかった」として、今回はイランへの再報復を見送る考えを示した。だが似たような事態が再び起こり、中東の混乱という「泥沼」に米国がさらに引きずり込まれる状況になれば、トランプ氏には逆風になるだろう。1年前に退任したマティス元国防長官のように理性的に判断できる「止め役」も政権内にほとんどいない。
米国は今、一つの国家であることが信じられないほどまで、民意の分断が進んでいる。「裾野の広い反トランプ」vs.「岩盤のように固い親トランプ」の拮抗は、ちょっとやそっとのスキャンダルでは変わるまい。それどころか弾劾裁判は分断をより加速、固定化させるだろう。
もし、この構図が揺らぐとすればいかなるシナリオか。
報復の連鎖に歯止めがきかなくなり、国際秩序を揺るがす戦争の泥沼に米国が引きずり込まれたり、再びテロが頻発したりすること。これをきっかけに快調だった米国経済が一転して冷え込むこと。
いずれにせよ、日本を含む世界中が「返り血」を免れない事態には変わりがない。(文/朝日新聞アメリカ総局長・沢村亙)
※AERA 2020年1月20日号