どんどん気持ちが沈む中、ネットで見つけた「アスペルガー症候群」の記述にくぎ付けになった。特性の「共感性や情緒的な反応の乏しさ」が夫にぴたりと当てはまる。「自閉症スペクトラム(ASD)」の一種で、知能や言語能力に遅れがないため、気づかれないまま大人になっていることが多いと書かれていた。
女性は実家の両親に打ち明けた。だが、返ってきたのは「男なんてみんなそんなものよ」というセリフ。ああ、わかってもらえないんだ。私が求めすぎているの? 悪いのは私?
「ぐるぐると同じことばかり考えて、ご飯を作るのも外出もおっくうになっていきました。最初は『疲れた』と独り言を言っていたのが、『消えたい』に変わって、気づくと『死にたい』になって……」(女性)
歯が折れた事件の翌朝、このままでは自分が壊れてしまうと考えた女性は、息子を連れ、寄り付かなくなっていた実家に避難した。数日後、「カサンドラとその回復のために」と題する講演会が横浜であることを知った。登壇者は『旦那(アキラ)さんはアスペルガー』(コスミック出版)シリーズで知られる漫画家の野波ツナさん。11月、すがる思いで会場に向かった。
カサンドラ症候群とは、「共感性の欠如」という特性を持った人のパートナーに生じる身体的・精神的苦痛のこと。診断名がつくほどの社会的不適応は認められない「アスペルガータイプ」にもその特性はみられる。アスペルガー症候群の発症率は女性より男性が高いとされるため、必然的にアスペルガー特性を持つ夫とカサンドラ妻の組み合わせが多くなる。彼女たちは夫と心を通い合わせられない孤独と、周囲に理解してもらえない二重の孤独に苦しみ、片頭痛や抑うつ、パニック障害などさまざまな症状が出る。その苦悩と脱出の過程を赤裸々に描いた野波さんの作品はカサンドラたちの「バイブル」だ。
臨床心理士で、夫婦関係と発達障害が専門の青山こころの相談室代表の滝口のぞみさんは言う。