西江さんは、このVR動画を虐待する当事者ではなく、隣近所など周囲にいる人たちに見てほしいと話す。
「身近にある虐待に気づき、通報する勇気を与え、早期発見につなげたい」
視聴回数は動画のアップから1週間で18万回を超え、約2カ月で百万回近くになった。
<俺らはホームボタン押せば逃げれるけど、この子は逃げれなかったんだよな…><クラスメイトで虐待されてる子、いつかは助けられたらいいな>
コメント欄にはこんな言葉が4千件以上並ぶ。だが、「これだけではまだ何も解決されていない」と西江さん。
全国の児童相談所が対応した虐待件数は増え続け、昨年度、過去最多の約16万件を数えた。虐待による死亡事例は年間約50件を数え、東京都目黒区で当時5歳の船戸結愛(ゆあ)ちゃんが両親からの虐待で昨年3月に亡くなった事件も記憶に新しい。西江さんは言う。
「早期発見という観点だけでなく、児相への受け入れや警察との連携、財源などが足りていない、といった厳しい現状にも意識を向けながらコンテンツを充実させる必要がある。虐待によって亡くなる子どもが一人でも減る。そのきっかけが、僕たちがつくったVR動画であればうれしい」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2019年12月2日号
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