首相の安倍晋三はじめ政府要人は「日米同盟の抑止力、普天間飛行場の危険性除去を考えると辺野古移設が唯一の解決策」と判で押したようにくりかえす。だが、狭い島に米軍専用施設面積の70%超を押しつけられた沖縄の側に立てば不条理だらけだ。「唯一」の解決策といいながら、辺野古と他の候補地を比較検討した説明はない。自然の宝庫、辺野古の地盤は「マヨネーズ並み」の軟弱さで7万7千本の杭を打ち込まねばならず、沖縄県の試算では2兆5500億円、少なくとも13年の工期がかかるという。すべて曖昧なまま国は着工した。デニーは語る。

「防衛省の公表資料をもとに沖縄県は試算をしました。軟弱地盤は水面下90メートルまで続いているのに杭の工事実績は70メートルまでしかない。全国民に対して不透明な公共工事です。2月の辺野古沿岸部の埋め立ての是非を問う沖縄県民投票では7割以上の県民が反対の民意を示した。私は日米同盟の大切さは理解しているし、米軍基地を全部なくせとは言っていません。ただ、辺野古の新基地は要らない。政府は工事を止めるべきです」

 デニーは右手首に巻くプラスチック製の輪に左手をそっと当てる。輪には「DEMOCRACY STRIKES BACK」と刻まれている。「民主主義の逆襲」である。早稲田大学で講演をした際にプレゼントされたものだ。と、書くと「闘う知事」のイメージを抱くかもしれないが、ちょっと違う。デニーは政府を批判しつつも一貫して「対話」を掲げ、扉は開け放ち、全国各地を訪ねて米軍基地や日米地位協定が「日本国民、みんなの問題」だと訴える。多くの人を包み込むようにして「民主主義の逆襲」を狙う。

 47都道府県を見渡し、過去に遡(さかのぼ)ってもデニーのような生い立ちの知事はいない。存在自体が「多様さ」の象徴であり、時勢が生んだ首長だ。ことあるごとに「誰一人取り残さない」とデニーは言う。取り残された者の苦悩を知っているからだろう。

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玉城デニーが取り残された者の苦悩を知っている訳は