
今年、講談師の神田松鯉さんが重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された。来年2月に真打に昇進、六代目神田伯山を襲名する弟子の松之丞さんと、互いの芸や講談の未来を語り合った。AERA 2019年11月25日号に掲載された記事を紹介する。
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神田松之丞(以下、松之丞):師匠が人間国宝になられたことは弟子として嬉しいし誇らしいことなんですが、本音をいえばあまり関係ないですね。師匠の芸が好きでいちばん素晴らしいと思って入門させていただいたので師匠への思いはまったく変わらない。ただ忙しくなったことでお客様とのお付き合いも増えると身体が心配ですね。
神田松鯉(以下、松鯉):身体が心配なのはおまえさんのほうですよ。テレビやラジオなどにたくさん出ることで講談業界の宣伝隊長になってくれている。松之丞みたいなのがあと2、3人いてくれたら講談もブームになってくれますが、今は松之丞ひとりに負担をかけていて身体を心配しています。
松之丞:師匠には孫弟子を入れると10人もの弟子がいて、時間を作っては惜しみなく稽古をつけてくださる。そのうえで落語に交じって寄席でトリ(※いちばん最後に登場する主任)を取れるってすごいことなんです。
松鯉:長年やってきたことがやっと実りつつありますね。
松之丞:来年2月11日に真打昇進と六代目神田伯山を襲名しますが、芸がすぐに変わるわけではないので、色々な人に長い目と耳で見て聴いてほしいです。
松鯉:襲名を薦めたのは私だけど、講談の歴史に残るこの大名跡をおまえさんなら大きくして、さらに講談界を勢いづけてくれると思う。気負わずに松之丞の伯山を作っていけばいいんだよ。
松之丞:そうですね。色々な人が名跡に苦しんだりしていると思うんですけど、僕はあんまり過去の講談師と比べたりしようと思わないんですね。僕が現代を生きているのは圧倒的に有利なことなので、名人上手の芸は参考にしますが人が違うのですから本当に参考にしかならないと、どこかで割り切っています。