それぞれの脳波がトレーニングを開始した時点から上昇したか、下降したかを計測し、最適な状態に近づいているかどうかをアプリが判断する。トレーニングを繰り返すことで、目的に合った脳波状態を再現できる能力が備わるという。
脳の血流量変化の計測技術を活用した簡易計測装置も国内を中心に普及している。
東北大学と日立ハイテクノロジーズの出資会社「NeU」(東京都千代田区)が個人ユーザー向けに発売する「アクティブ・ブレイン・クラブ」は、超小型脳活動計測センサーを額部分に固定し、前頭前野のヘモグロビン濃度を測る。セットで活用するアプリに毎月更新される、ゲーム感覚の脳トレプログラムで頭の回転(発想力)、記憶力、集中力などのアップを図るシステムだ。前頭前野が最適な状態にあるかを示す「脳活動スコア」が満点に近づくようトレーニングを重ねる。
前頭前野の活動が低下すると、物事を思い出しにくくなり的確に判断できなくなるだけでなく、新しい場面に柔軟に適応する「流動性知能」も低下する。流動性知能は18~25歳の青年期をピークにその後次第に衰え、40代以降で低下するとされている。同社の青澤さおりマネージャー(48)は脳トレの必要性についてこう指摘する。
「筋肉量は生理的に40歳ごろから低下していきますが、体感として実感できる人は少ないはずです。脳も同様に、年齢とともに蓄積されるスキルや経験を活用する場面が増えることで、流動性知能の低下自体に気付きにくくなってしまうのです」
冒頭で紹介した東急不動産の取り組みは、脳波測定器をつけて働く様子がショッキングに受け止められたことなどから、「ノイズが多い就業中の脳波データの分析に科学的裏付けはあるのか」といった疑問や、「従業員の脳波データを取るのは人権侵害では」といった批判も出た。
これについて同社は、データの計測や結果分析は外部の委託会社や専門家の協力を得たとし、「従業員の脳波データの収集に当たっては個別にヒアリングなどを行い、理解を得た上で数日間に限定し一部を対象に実施しました」と説明する。
一方、前出の茨木氏は「脳データの計測技術は飛躍的に進んでおり、一概に非科学的という見方は、それ自体が時代錯誤で非科学的」と一部の批判は筋違いと指摘。その上で今回のケースに限らず、「脳」というセンシティブな対象を扱う以上、企業の説明責任が必要と強調する。
「ブレインテック商品は一般的に、製品のメリットや効果をうたう根拠が薄弱だったり、解析指標のブラックボックスが多かったりするのが実情です。例えば、どういう定義で『集中力』や『リラックス』と設定しているのか。その科学的根拠を説明する責任がサービスを提供する企業側にあります。ユーザーも真偽を見極められなければ、この新しい技術の恩恵を受けることはできないでしょう」