主演ドラマ「グランメゾン東京」でフレンチシェフ・尾花夏樹(おばな・なつき)役に挑戦している木村拓哉さん。世界最高のレストランを作るために奮闘するシェフという役どころだ。AERA 2019年11月4日号に掲載された記事から、木村さんをはじめとする俳優たちの撮影現場の様子をルポする。
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10月初旬、横浜にある緑山スタジオの厨房セットのなかで、木村拓哉さん(46)が鋭い表情でコンソメの味を探っていた。かつてバラエティー番組のコーナー「BISTRO SMAP」などで料理を披露してきたが、木ベラの扱いも、火の様子を見る姿勢も、腰巻きのエプロン姿も実に様になっている。
この日、撮影していたのは第3話。あるものを使って、画期的なコンソメ開発に挑むシーンだ。厨房には木村さんの他、鈴木京香さん(51)、沢村一樹さん(52)、及川光博さん(50)、寛一郎さん(23)の姿もあった。鈴木さんは尾花と共に三つ星を目指すシェフ、沢村さんと及川さんは一度は尾花と決別したものの、協力者となるパリ時代からの仲間、寛一郎さんは料理への情熱を尾花に買われ「グランメゾン東京」にバイトとして採用された若者を演じる。
ドラマの撮影では、同じシーンを角度や方向を変えて何度も撮り直すことが多い。スタッフがその都度セッティングを変えるため、俳優たちは何度も待つことになるのだが、待ち時間のたびに和やかな空気が流れた。木村さんを中心に談笑し、料理用のミトンをはめた寛一郎さんを相手にボクシングをして遊ぶ一幕も。スタジオにジャズのスタンダード「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」の音色が響き渡ったときもあった。木村さんの口笛だった。
同時に、ピリッとした心地よい緊張感を感じることもあった。コンソメと言えばキューブ型しか知らない芹田(寛一郎さん)に、京野(沢村さん)が作る手順や難しさを説明するシーンを撮影していたときのことだ。台本通りなら芹田は「へ~」といった面持ちで聞いているだけの場面だが、突然、木村さん演じる尾花がアドリブの質問を繰り出した。
「卵白は何のために使うんだっけ?」
京野のセリフに沿った小テストだが、「え?」と戸惑い、即答できない芹田に尾花は言う。