■生活習慣病や心臓病に注意
心原性脳塞栓症は、心房細動など心臓の病気が原因で起こる。心臓でできた血のかたまり(血栓)が血流にのり脳に運ばれ血管を詰まらせる。このタイプは脳梗塞のなかでもとくに重症化しやすい。
脳梗塞の主な原因は、加齢や生活習慣だ。60歳代から増え始め、発症のピークは男性が70代前半、女性は80代前半とされる。東京慈恵会医科大学病院脳神経内科教授の井口保之医師はこう話す。
「加齢にともなう血管の老化や動脈硬化、脳梗塞のリスク因子となる生活習慣病の増加・悪化など、さまざまな要因が重なって脳梗塞が起こりやすくなると考えられます」
高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病、心臓の病気、喫煙、飲酒など、脳梗塞のリスク因子のほとんどが生活習慣に関わるもの。「総コレステロール値が1ミリモルパーリットル増加すると脳梗塞の発症率が25%増加する」「心房細動のある人は、ない人と比べて脳梗塞発症リスクが5倍高い」という報告も。一方で、高血圧や脂質異常症の適切な治療、禁煙で脳卒中のリスクが低下するというデータもある。
「遺伝的な要因など予防が難しいリスク因子もありますが、ほとんどが生活習慣に関わるものです。言い換えれば生活習慣の改善や生活習慣病の治療により脳梗塞のリスクを減らせるということです」(豊田医師)
また、一般的に心臓や血管の病気は冬に多いとされるが、豊田医師が実施した研究によると、脳梗塞の発症率は秋だけがやや少なく、それ以外の季節では差がなかった。ただし重症例は冬が多く、これは、季節により起こりやすい脳梗塞のタイプが異なるためだという。
「冬は、脳梗塞のなかでも重症化しやすい心原性脳塞栓症が多い傾向があります。冬は血圧が高くなることや血圧の変動が多く、心房細動が起こりやすくなることが主な理由です。一方、動脈硬化が原因の脳梗塞は脱水がきっかけとなることが多く、夏に起こりやすくなります」(同)