姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
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 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官は9月下旬に、米朝の実務協議を再開すると表明しました。

 気になるのが時を同じくして発表されたボルトン大統領補佐官の解任劇です。このことは一つの偶然かもしれませんが、9月下旬の実務協議はビーガン北朝鮮担当特別代表の主導で進められるのではないかと思われます。そもそもビーガン氏の基本的な立場は、反ボルトンでした。また、一説ではボルトンとポンペオ国務長官は犬猿の仲とも言われていますから、そう考えていくと次の米朝実務協議がかなりのところまで進む可能性があります。

 万が一ここで破綻した場合、米朝の間の雪解けムードは一転して凍りつくでしょう。そうなった場合、北朝鮮は現状固定を打ち破るために、米朝会談以前のモードに戻る可能性もゼロではありません。そういう意味でも、今回の実務協議は北朝鮮にとっては正念場です。

 ボルトンは、ハノイでの第2回米朝首脳会談で一括妥結のビッグディールを北朝鮮側に提案しましたが、北朝鮮はそれをのめなかったと言われています。恐らくハノイ会談を土壇場で破綻に導いたのはボルトンの発言力が大きかったからでしょう。その彼をお払い箱にしたことから考えられるのは、何らかの譲歩の可能性があるということです。北朝鮮は「ニューカルキュレーション(新しい計算法)」ということを要求しています。強硬姿勢だったボルトンが解任されたことで、今後は体制保証、不可侵など、北朝鮮が考えるある条件を米国側が提示する可能性があります。それによって北朝鮮が部分的な非核化もしくは、核実験のフリーズに応じれば、これだけでも米国にとっては大きな成果です。

 また北朝鮮は米国との関係がドラスティックに改善できるならば、南北関係は後回しにしてもいいと思っている節もあります。米朝の関係が劇的に変われば、北朝鮮は韓国側と日本側により良い条件を要求できるアドバンテージを持ちます。そうなった場合、北朝鮮は日韓を競合させるという可能性も出てくるかもしれません。それを占う意味でも9月下旬の米朝実務協議の行方に注目してほしいと思っています。

AERA 2019年9月30日号