タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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幼い頃、丸の周りに何本も線を描いてお日様を描いたことがあるでしょう。私も赤や黄色でそんな太陽をたくさん描きました。太陽と光線を表した意匠は古くから用いられ、日本ではめでたい図柄であることから祝い事などにも使われてきました。というだけのことなら、旭日旗(きょくじつき)は平和の祭典・オリンピックにぴったりでしょう。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は9月3日、韓国国会の文化体育観光委員会が旭日旗の競技会場への持ち込み禁止措置を組織委に求める決議を採択したことを受けて、「旭日旗は日本国内で広く使用されており、旗の掲示そのものが政治的宣伝とはならないと考えており、持ち込み禁止品とすることは想定していない」と表明しました。週刊ポストのヘイト的な韓国特集や、嫌韓で盛り上がるワイドショーが批判され、日韓関係が冷え込んでいるさなかにです。2017年には、AFC(アジアサッカー連盟)が旭日旗を掲げたサポーターを放置したとして、川崎フロンターレに処分を下しました。旭日旗は日本がアジア諸国に侵攻した際に用いていた軍の旗。国際試合の場で旭日旗を振るという行為は、日本による植民地支配の歴史を賛美する意味に取られかねません。古くからあるめでたい柄の旗で自国の応援をして何が悪い、外国にとやかく言われたくないという理屈は通用しない。このタイミングで「旭日旗問題なし」と表明するのは韓国への当てつけと取られます。それこそ誤解を生む意思表示でしょう。もしそうとわかった上で表明したのなら、開催国として最悪の判断です。
いったいどんな人が五輪のスタジアムで旭日旗を振るのか。どの試合のどんな場面で、何を叫びながら振るのでしょうか。国内外でその旗の名のもとに斃(たお)れた数多の死者を悼む夏に、そんな光景を見たくありません。
※AERA 2019年9月16日号