AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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カンヌ国際映画祭の常連ジャ・ジャンクー監督(49)が新作を完成させた。2001年から18年にかけて激動する中国の風景のなかで「江湖」と呼ばれる裏社会を生きる女チャオと、恋人でヤクザ者のビンの生き様が描かれる。
「江湖には流浪する人、故郷を捨てた人、秘密結社に属する人、という意味があります。以前は中国全土に多くいましたが1949年の新中国設立を境に裏社会が消滅し徐々に消えていきました。しかし70年代後半の改革開放後、仕事のない若者が増え、新たな裏社会が生まれてきたのです」
映画のはじまりは01年の山西省・大同(ダートン)。麻雀の遊技場を仕切るビンとチャオは仲間たちと兄弟の契りの酒を酌み交わす古いタイプの江湖だ。しかし二人は無軌道な若者の集団に襲われる。
「昔の裏社会の人々は“情”と“義”を人付き合いの根本理念にしていましたが、新しい裏社会の若者たちにはそうした儀礼がない。チャオとビンは半分は伝統的な裏社会の理念を残しながらも、半分は現状にのみ込まれている」
事件後、チャオはビンの罪をかぶり投獄される。5年後、彼女が出所すると、ビンは新しい恋人と暮らしていた。
「昔だったらビンのような行動はあり得なかったでしょう。江湖は恋人や愛人に対して“忠誠と永遠”を誓ったのです。しかし5年の間に中国は大きく変化し、チャオは過去の世界から来た人間になっています。社会の変化は人をのみ込み、古いものを淘汰していく。義理人情の精神もそうです。そのことを江湖を通じて描きたかったのです」
だが、無一文で街に放り出されてもチャオはタフだ。うまい手で男をだまし、生き延びたりもする。そのたくましさには思わず笑いがもれる。
「それはチャオが監獄に入っていたことに関係があります。実は中国では監獄に入ることを『大学に行く』と言うんです。監獄のなかでいろんなことが学べるから(笑)」