タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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高校生のころ、夏休みの終わりは憂鬱(ゆううつ)でした。また満員電車での痴漢とのバトルが始まるのかと。30年経っても変わらぬ状況に暗澹(あんたん)たる気持ちになります。痴漢と、痴漢を作り出す社会に対する憤りは今も消えません。
このほどキュカ(QCCCA)というプラットフォームが痴漢レーダー(ChikanRadar)を立ち上げました。ユーザーはLINEを友達登録し、痴漢被害にあったら「通報する」をタップ。位置情報を伝えることで、どの駅で痴漢被害が発生しているのかを可視化する仕組みです。集まったデータをもとに、鉄道会社や警察に働きかけて、警備強化や監視カメラ設置などを求めていくそうです。画期的な取り組みとして期待が集まっています。
痴漢行為は必ずしも性衝動が原因ではなく、支配欲が動機とも言われます。強いストレスにさらされた男性が痴漢行為をやめられなくなる、依存症としての面があるというのです。『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)を書いた精神保健福祉士の斉藤章佳さんは、痴漢は男性優位社会の病理の表れだといいます。根底には“男らしさ”の呪縛や「女性は男性の“性”を受け入れなければならない」という男尊女卑的な社会通念があるのだと。斉藤さんは私の対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)の中で「日本は“男尊女卑依存症社会”だ」と述べました。男尊女卑は男も女もむしばむ構造なのに、みんなやめたくてもやめられなくなっているのだという指摘には、思わず膝を打ちました。
痴漢をなくすには、データで被害を可視化して対策を進めるのと同時に、根深い女性差別、女性嫌悪を取り除くことが重要です。またそんな被害妄想を……と思ったあなたが男性でも女性でも、心の中には痴漢を育む土壌があるかもしれないのです。
※AERA 2019年9月2日号