大人気の「恐竜博2019」から、ティラノサウルスの全身復元骨格(c)朝日新聞社
大人気の「恐竜博2019」から、ティラノサウルスの全身復元骨格(c)朝日新聞社
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 メディアに現れる生物科学用語を生物学者の福岡伸一が毎回ひとつ取り上げ、その意味や背景を解説していきます。今回は「恐竜」を解説します。

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 上野・国立科学博物館(通称・かはく)は、私にとって少年の頃から大好きなわくわくスポットだが、この夏は「恐竜博2019」で大賑わいだ。

 長い腕と強力なツメを有する肉食竜ディノケイルスや、北海道むかわ町で発見された新種のカモノハシ型恐竜むかわ竜の骨格標本が展示され大迫力である。特に、むかわ竜は、本格的な研究の結果、白亜紀の後期(いまからおよそ7千万年前以前)の日本列島に棲息していた新属新種の恐竜であることが判明し話題を呼んでいる。最初にアマチュアの化石ハンターによって発見されたこと、当初は海竜ではないかと考えられたこと、ほぼ完全な個体全体の化石が得られたことなどから、化石ハンターにとってのヒーロー「鈴木少年」が約50年前に福島県いわき市の地層から発見したフタバスズキリュウ(これもかはくを代表するモニュメントとして堂々と常設展示されている)を彷彿とさせるものがある。科学の進歩はアマチュア・ナチュラリストの愛と執念によって支えられているのだ。

 全国的にも夏は恐竜に関するイベントは目白押し。どうして子どもたちは(私のような大人もそうだが)、恐竜にそれほどまでに惹かれてしまうのだろうか。

 まず第一に、現存しない幻の巨大生物であるということ、そして生物でありながら、硬質、ドライ、金属的な感じといったところが、ロボットや戦車・戦闘機のようなメカニカルな雰囲気を湛えているところが魅力の源泉なのではないか。ちなみに、硬い、鎧のような鱗に覆われた恐竜の、爬虫類的なイメージは現在の研究によって一掃され、恐竜はむしろ鳥に近く、羽毛に覆われていたものも多く、体温のある恒温動物であるというのが通説となっている。恐竜は絶滅したというよりも、その一部は、現在の鳥に進化して生き延びたのだ。

 子どもたちが好きなもののもう一つは、怪獣とウルトラマン(シリーズ)である。ウルトラマンの身長は公称40メートル。戦う怪獣たちも同じくらいのサイズだ。ティラノサウルスの身長は6~7メートルたらず。ブロントサウルスの全長も20メートルくらい。100メートル超のタワーマンションが林立する東京に彼らが今、あらわれたとしても、意外と見劣りしてしまうという現実がある。

(文/福岡伸一)

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