彼女の作品は、今日起こった出来事、出会った人、思ったこと、感じたことなどを淡々と綴っているものも多い。だが、それは安易な情緒などではなく、忘れないための行動でもある。そのきっかけとなったのは彼女の祖父の死。リスペクトしていた亡き祖父と“共演”すべく、祖父の声を逆再生した音声を用いた「genome(ゲノム)」という曲を昨年9月に作った。

“私にくれたもの、私にくれた愛、全部覚えてる genome”(「genome」から)

 個体から個体へと受け継がれる遺伝子を意味するゲノムになぞらえつつ、血縁であること以上に、祖父との交流で受け取ったものこそ忘れたくないと綴る彼女。それは祖父の遺志を継承し、表現者として生きていく決意表明のようでもある。実際にこの曲を完成させてからの彼女は、より自覚的に活動をするようになっていく。

 7月14日に配信で発表された2作目のEP「organ(オルガン)」は、8月27日にZINEと合わせた形でライブ会場、通販、ショップなどで販売される予定だ。また、ヒップホップでアジアを接続するという企画の一環で、10月14日まで愛知芸術文化センターで開催されている企画展「アジア主義の三つのテキストの朗読」にも参加。そこでは英語と日本語字幕とセットになった映像として彼女の作品も展示されているという。

 単なる女子高生ラッパーとしての玉名ラーメンではなく、思い出を残そうとする一人の人間としての玉名ラーメンの存在を、私も2019年夏の記憶として脳裏に刻もうと思っている。(文/岡村詩野)

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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