弘徽殿の企みで殺害されかけた源氏が、亡き母の面影を追って平原演じる藤壺の寝所を訪れる場面では、高橋が、「心の傷から流れる血は消えません。私を救えるのはあなたしかいない」と言い、平原を抱きしめる。すると、暗転。高橋にとって初のラブシーンまであり、会場からは小さな悲鳴すら漏れた。
高橋は、セリフを言いながら演じたことについて、初日後にはこう語った。
「やはりセリフがあるところは、台本をもらった時は棒読み状態。なんとか役者の皆さんにアドバイスをいただき、形になったと思います」
一方、平原にとっては、スケートこそが挑戦。この舞台のために、平原はスケートリンクに毎日通い、足の皮がむけるまで、時には1日5時間も練習したという。かつらに十二単風の衣装という動きにくい服装にもかかわらず、落ち着いた滑りをみせながら、「一夜のはかない恋は消えゆく。これが夢でも幸せでした」と、切ない恋心を歌いあげた。
そしてサプライズは第2幕にも詰め込まれていた。海賊に助けられて生き延びた源氏。海賊の長を務めるのは、元宝塚のトップスター柚希礼音(40)だ。勢いある歌唱と、ダンス仕込みの派手な演技で舞台に華を添える。
圧政を敷く弘徽殿、そして朱雀帝との、最後の対決の場面は圧巻。クライマックスは高橋のスケートの演技で魅せるのかと思いきや、予想以上の演出があった。独唱だ。
「歌は収録予定だったのですが生歌に変更になり、正直恥ずかしかったですが、この作品のために『やるっきゃない』と腹をくくりました」
と高橋。愛した女性たちへの想いを、伸びやかな歌声に込め、孤独を爆発させるような絶望のスケートで観客を引き込んだ。
さらに、源氏を想う藤壺のもとに幻想となって現れるラストシーンでは、高橋がワイヤーアクションに挑戦。天から舞い降り、平原の背中を抱き、そしてまた月のあかりの中へと飛び立っていった。
生歌、スケート、そしてワイヤーアクションの3連続。昨季に現役復帰した時には、
「パフォーマーとして生きていきたい」
と話していた高橋。まさにパフォーマンスの領域を広げるような舞台となった。
この舞台には、外国人スケーター2人も参加。朱雀をステファン・ランビエル(34)、紫の上をユリア・リプニツカヤ(21)が演じた。