AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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インド・ムンバイに暮らす富裕層の青年とメイドの淡い想いを描く本作。インドに生まれ海外でキャリアを積んだロヘナ・ゲラ監督(46)は定番の「身分違いの恋」とは違う複雑な味わいを生み出した。
「私の家にもメイドがいて、子どものころから彼らと自分との違いについて『何か』が引っかかっていた。それをどう伝えるかをずっと考えて『人はどうやって愛する相手を見つけるのか』という普遍的なテーマに行き着いた。ラブストーリーの形をとることで、階級問題を説教臭くなく描けると思った」
メイドのラトナは理解ある雇い主アシュヴィンと次第に心を通わせていく。が、物語は決してロマンチックなだけでは進まない。観客は二人を隔てる階級や因習の根深さ、複雑さを知ることになる。監督の家族も「この設定はあり得ない!」と言ったそうだ。
「そう、二人のようなロマンスはインドではあり得ないとされている。でも私は実際にあると思っている。絶対に秘密にされているから誰も知らないだけ。だから現実の世界でも起こるかも、というリアルさを大切にしたかった。今後のインドですぐに大きな変化が起こるとは思っていないけど、でも何かが変わるかもという希望は持っている」
ラスト、二人の選択にはそんな希望が託されている。さらに本作はヒロインの自立の物語である点も興味深い。服飾デザイナーになる夢を持つラトナは仕事の合間に裁縫教室に通うことを許され、自立への道を歩もうとするのだ。
「雇用主が使用人の子の教育費を出したり、医療をサポートしたりすることは現実にもよくある。でもあくまでも雇用主の寛容さに依存しているから不公平でもある。社会としての制度が確立されるべき」
いっぽうでラトナの妹があっさり結婚を選ぶシーンには女の人生いろいろがみえる。
「個々の選択はそれぞれ尊重されていい。でも『結婚が女性の最高のサクセス』という風潮はインドに根強いし、アメリカにも残っている。私の母はジャーナリストで、インドでも進歩的な家庭だった。とても幸運だったと思う」
階級差はなくても、女性の生きにくさは日本のほうが上かもしれない。世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ指数(男女格差指数)2018」でインドは108位、日本は110位だ。